act.4 (4/4)
「そんな…!空間の闘士の正体が…」
「結衣さんの弟だったなんて…!」
「そんなのありかよ…!」
一方、その戦いの一部始終を外で見ていた泉たちもまた驚愕の表情を浮かべるしかなかった。
敵だ敵だと思っていたそのデジモンの正体は、実は結衣の弟。
仲が悪かったなんて、聞いた事はなかった。何故ならば彼女は友樹の世話ですら楽しそうで、あやし方も上手かった。仲が悪かったなら、そこまで気が回らないだろう。
だけど、今の戦闘を見て仲が良いとはお世辞にも言えない。
まさに殺し合い。
姉弟で、殺し合っているようにしか見えなかったのだ。
「ボコモン、どうなってるのー」
「ええい!わしに聞くな!わしに分かる事は…空間の闘士は歴史にすら名を残せんかった悲しき英雄じゃい…」
「悲しき、英雄…」
確かに、あのヴァイルモンの姿は、悲しんでいるようにも、恨んでいるようにも見える。
それは、歴史にすら名を残す事が出来なかった事と、11人の英雄を憎んでいるような、そんな姿。
だけど、それはあくまで空間の闘士の話しであり、結衣の弟である悠太の話しではない。
何故空間の闘士は悠太に受け継がれたのか、が問題である。
「ボクは!!お姉ちゃんとずっと一緒に居たい!!でも、お姉ちゃんはそう思ってないみたいだね」
『…っ、』
何度攻撃を喰らったか分からない。ただ一つ言える事は自分はここまで痛めつけられたのに、進化を解かなかった事。自分はそれだけ意思が強くなってて、我慢強くなったという事。
だけど、何故だろう。虚しい。
自分の想いを伝えなきゃと我慢し続けたのに、それらが無駄みたいに感じてしまう。どれもこれも、このエリアがめちゃくちゃなせいだ。おかげで上下左右の区別がつかなくなってきてしまう。
自分の頭が正常に動いているのかも、分からなくなってしまう。
「どうして…ボクがワガママだから?お姉ちゃんに甘えているから?だから、一緒にいたくなくて、嘘吐いて、一人でこの世界に来たの?」
『!!…ちが――』
「違わないじゃん!!」
ドンッ、と自分の真横に放たれる光線。それを見送って、冷や汗をかく。
どうして、違うのに。どうして、伝えなくちゃいけないのに。身体が重くて重くて仕方がない。
言わせてくれない。伝えさせてくれない―――
「この冒険を通して、お姉ちゃんは変わったよ…変わっちゃったよ…少し前まで全然気にしていない事を気にして、勝手に悩んで…なら…一緒に居てくれないお姉ちゃんなんて、大っ嫌いだ!!」
『ごめんね』
「何だよ、今更謝ったってボクは――」
『でも、もう決めた事だから』
もう、曲げる事は出来ないから――
そこでようやく立ち上がる事が出来た。そして、真っ直ぐ彼を見つめ返す。
動揺する彼の表情が良く見える。
自分の意思を考え直す事なんてもう出来ない。だって、決めたから。
例え、他の人達に否定されようとも、どう思われようとも――
「……」
『一緒に帰ろう、家に』
“クロノソルス”
そしたらきっと、時間がゆっくりと教えてくれる。
それは不確かで、とても曖昧だけど、ちゃんと応えてくれるから――
「お姉ちゃん…」
ヴァイルモンは、一筋の涙を流すと、そのまま瞳を閉じてヴィータモンの攻撃を真っ向から受け止めた。
浮かび上がるデジコードと、ヴァイルモンのスピリット。
それを見て、ヴィータモンは飛躍し彼のスピリットを取る。するとヴァイルモンの姿は徐々に小さくなっていき、パルグモンの姿へと変わって行き、パルグモンのスピリットが浮かび上がる。
それを見て、ヴィータモンは自身にデジコードを包み込ませていく。
『ヴィータモン、スライドエボリューション――ロビスモン』
『悲しき哀れな魂よ、このデジヴァイスで時の流れと共に浄化する!デジコードスキャン!』
手に持ったデジヴァイスで、浮かび上がったデジコードと、スピリットをスキャン。
火花を散らし、徐々にデジコードが吸い取られ、最後まで吸い取った時、パルグモンの姿は消え去り、代わりに、小さな少年の姿が現れた。
これが、悠太の姿。
あの日と変わらない姿の弟の姿だった。
『悠太…』
デジコードとスピリットを全て吸い取ったデジヴァイスの画面には、「空」と刻まれスピリット二つを表示した。
『終わったんだ…』
その言葉を合図に、ロビスモンは自分の身をデジコードで包み込むと、すぐに結衣の姿に戻っては、横たわる悠太の元へと駆け寄った。
デジコードをスキャンした瞬間、彼はすぐに倒れてしまったのだ。きっと、疲労やら何やらで疲れてしまったんだろう。
その小さな身体を、結衣は壊さぬように、優しく抱きしめた。
『悠太…っ』
何故自分の弟がこの世界に来れたのか、何故デジモンに進化出来るとか、そんなのは今は関係なかった。
たった一人の家族とまた出会えて良かった。無事で良かった。
今の結衣にはそれだけで十分だった。
優しく、愛しく胸に抱く結衣の目の前にこのエリアへと導いた大きな目玉が現れた。その目玉を見つめ、ジッと見つめる。自分を通れと言うのだろうか、結衣は弟を背負いその目玉へと足を踏み込む。
一瞬の闇。その闇の中でも歩みを進めていく。次には外――ではなく、随分とカチカチと一定の音が響くエリアへと辿り着いた。
様々な大きさと種類の懐中時計がエリア中に存在する。そんな中特別大きな懐中時計が地面の代わりになり、その奥に小さく人影が見える。
「――っけ、やっぱり人間の魂の宿ったデジモンは無様な負け方しやがる」
『――!!』
不意に、どす黒く、重いそんな声が伸し掛かってきた。
あからさまにこの声はその人影から聞こえた。誰の声だなんて、今では聞かなくても分かるくらい、その声は脳内にインプットされている。
『ベルゼブモン…!』
「よォ、結衣。今度は俺と、遊ぼうぜ」
ぐらりと、視界が歪みだす。
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