act.1 (1/4)
「ボクら一緒にいられるの?」
『…うんっ、ずーっと一緒』
だって、私達家族でしょ?
家族は一緒にいられるのが当たり前だし、離れても離れられない、強い繋がりがあるんだもの。だから、私は決めたの。
悠太、あのね――
『――…』
重く塞がっている瞼に力を入れて、そっと目を見開く。
この世界に来る前までの自分と、悠太との会話。何故今、その会話を思い出したのかは分からない。何故、こんな危機的な状態で、あんな夢が見られたのかも分からない。
走馬灯?それとも、ホームシック?何でもいい。夢だとしても、もう自分は決心した事があるのだから。
――死んでくれないか?
『ッ!』
一気に脳が、冴えた気がした。
バッと目を開けて、上半身を起こして改めて周りを見渡す。
そして、これでもと言う程に面食らった。
今までのデジタルワールドで驚く事はあったがこんなめちゃくちゃな光景は見た事が無かった。
破れている。この空間は、時間も空間も、常識もない、掟破りの世界。
乱雑にその空間に散らばる地形は、まるで夢を見ているかのように、反転していたり横を向いたりと、とりあえずめちゃくちゃな世界。
皆はどこ?自分はどこに来てしまったの、ここはどこ…?
「おはようお姉さん。目は完全に覚めてくれたかな?」
『その声は、パルグモン…!』
どこからともなくその声は聞こえる。彼は一人しか居ないのに、複数のパルグモンが自分を呼んでいる感覚がし、不快を覚える。
地面に着けていた尻を上げて、改めて周りを見渡す。
『皆はどこなの、この世界は一体…!』
「まあまあ、落ち着きなよ。ここにはボクとおねえさんしか居ないんだから。お姉さんの仲間はどこかの空間に居るんじゃないかなぁ〜?」
だって、ここはセフィロトモンの中なんだからさ。
『セフィロトモン…?』
初めて聞くデジモンの名前に、ピンと来ず首を傾げる。だが、唯一納得出来たのは、あの目玉のような物、触手、あの洞窟の中…全てが全て生きていると主張するようにドクドクと脈を打っていた。
それがとてつもなく気持ち悪くて、思わず顔を歪めてしまったが、まさか、デジモンの中にいるだなんて誰も思わないだろう。
「ここは空間のエリア。正にこのボクに相応しいエリアだよね!」
『空間のエリア…』
ふっと自分がいる場所より少し離れた場所に、パルグモンが現れる。
空間がめちゃくちゃなエリア。今までのパルグモンの性格や戦い方を見ていたら確かに、彼らしいエリアなのかもしれない。
「さぁ進化しなよお姉さん。ボクは早く戦いたくってうずうずしてるんだ!」
『…、』
『スピリットエボリューション!!――ロビスモン!』
自分の体にデジコードを包み込み、次にはウサギの戦士がそこには存在していた。そして、その姿を見て、目の前のデジモンは何故だか、一瞬悲しそうなそんな顔をしたのだ。
一瞬なだけであって、ロビスモンは気付く事は出来なかった。
「楽しもうね、お姉ちゃん」
『…?』
密かに、感じていた。あのデジモンの違和感。強いと思われたそのデジモンは、自分がビースト進化してからというもの、自分がデジモンの本来の力を理解してから、あのデジモンが密かに違和感だと思えたのだ。
それは、あの呼び方、あの声色――
何となく、デジャヴを感じるのだ。
それはまるで――
『ッ!』
「考え事なんて余裕じゃん!!」
ガキィンッ!と咄嗟の反射で自分の翼を前に出せたのは偶然に等しい。目の前には鋭く尖った鋭利な大鎌の刃がロビスモンの翼の盾がぶつかり火花を弾かせる。
パルグモンが怪しく笑い、ロビスモンを見つめる。
ピキッ、ともはや聞き慣れてしまった、自分の翼の罅に早くも顔を歪ませ、大きく火花を散らした際に、パルグモンとの距離を開けた。
煙を上げる自分の翼を余所に、ロビスモンは気を緩めず遠くにいるパルグモンを見据える。
小さい体に似合わない大きな鎌に僅かに体重を賭けながら、こちらを見つめる。
可笑しい…。
パルグモンというデジモンは普段あんな鎌は持っていなかった筈…。
以前戦った時は、鎌なんて使わずに自分の両手で空間を自由自在に操っていた筈だ。にも関わらず、どうして、両手よりも明らかに使いずらそうな大鎌を…?
「シシシッ、ボクの武器が気になるの?」
『…パルグモン、貴方の武器は空間を操る事じゃなかったの?そんな大きな武器を持って、逆に動きづらいんじゃない?』
「シシシッ…それはお姉さんにも当てはまるんじゃないの?まぁお姉さんは随分と小さな刀を使うみたいだけど」
『…、』
「そんな事より、お姉さんは自分の事を心配した方が良いんじゃない?」
ヒュッ、とパルグモンの姿が消える。
どこに消えたのか、と周りをキョロキョロと見渡して、ようやく見つけた。自分の真上。
そして、真上に居たパルグモンは自分の両腕をロビスモンに向けて構えられており、もう既に、彼は技を発動させていた。
「“クロスカット”!!」
『ッ!』
両手が振り下ろされた時、空間をも切り裂くような風圧が自分に襲い掛かってくる。だが、それもまだ反応が出来ていた分、罅の入った翼で守りに入る。
あまりの勢いに飲み込まれそうになるも、何とか堪えその技を交わそうとするも、中々抜け出せない。
あんな小さな身体で良くこんな威力を出せる事だ、と防ぎながらもそんな余裕の考えが出来ている時点で彼女もまた可笑しいのだろう。
そして、目の前の攻撃を防ぐ事しか考えて居なかったロビスモンは後ろに迫っていたパルグモンの存在に気付けなかった。
「こっちだよ!!」
『なッ――』
視界が揺らぎ、自分の体を支えていた場所から離れた気がした。そして、ドンッと顔から地面にぶつかり、次に身体を打つ。そこで、自分は攻撃をされたのだと自覚が出来たのと同時に、このエリアは重力も中途半端で、継ぎ接ぎなエリアだというのも気付かされた。
視界が横にずれる。
『ゲホッ、…』
「遠方戦と接近戦を上手く使って、それをお姉さん相手に交互に使い分けてるの。」
『っく…、』
「お姉さん相手に手加減はダメかなぁって…今までは手加減してたんだけど、もうそれが要らないくらい
お姉さんの存在が邪魔だから、これからは手加減無しに本気で潰して行こうかなって」
これが子どもの恐怖、というべきか。死、というのをあまり理解していない子どもは、物を壊すのも簡単で、生き物にだって手を出す時だってある。
今の自分はまるで
「お姉さんはね、ボクのおもちゃだから」
大切に壊すの。
血の気が引く感覚を味わった。