act.2 (2/8)



「そんなに見たけりゃ、見せてやるよ…俺達の力をなッ!!――“フレイムストーム”!!」

明らかなダスクモンの挑発に見事に乗ってしまったヴリトラモンは、直ぐに立ちあがると自分の身を炎で包み込み、そのままその炎の渦をダスクモンの方へ向けて放出。
ダスクモンはもはや避ける事すらしなかったのか、そのまま炎の渦に飲み込まれていった。

「っへ、やったぜ」
「―引くんだヴリトラモン!」
「何言ってるんだ、奴は今俺が――」

皆からしたらダスクモンは今炎の渦の中。色は元から黒い為焦げたかどうかは分からないが、多少のダメージを受けている筈だろう。なら反撃をするなら今。
だが、そんなヴリトラモンの思考を分かっていたかのようにヴォルフモンは敢えて彼にこの戦いの制止符をかけた。それにはやはり納得が出来なさそうに声を荒げるヴリトラモン。そんな彼にヴォルフモンは尤もな意見を抗議する。

「この程度で奴を倒せるとは思えない。だから今は一旦引くんだ!」
「アタイも賛成よ。奴…戦い慣れしてるレベルじゃない…」
「どういう意味だ!」

だが、それでもヴォルフモンの言っている事に意味を理解出来ず納得出来ずにいる。そんなヴリトラモンに今ここで説明をしても炎の消滅の時間が待っているだけ。
言ってダメなら行動で。ヴォルフモンは他の仲間達を連れて、ヴリトラモンに嫌でも追ってくるように促しダスクモンに背を向け逃げて行った。

―――――…………
―――………

闇の大陸の森の中、ひたすら薔薇の明星へと歩き進んでいた筈なのに、思わぬ刺客のお出ましに子ども達はもうどの方面に進んだらいいのか分からない程大陸の奥の方へと進んできていた。
底知れぬ闇のダスクモンの力、それを子ども達はひたすら考えていた。まるでこの闇がその事しか話してはいけないような、考えてはいけないような、そんな気がしてならない。

「全くよ、あと一歩で奴を倒せたのにな」
「「「……」」」
「ふんっ」

そんな中、拓也が一人仲間から僅かに離れながらそう不貞腐れたような独り言が響く。どうやら先程の戦いで逃げた事に対して気に入らなかったのだろう。
だが、そんな拓也の言葉も前で歩いている子ども達は聞こえている筈なのに、誰も応えようとはしない。
代わりにそれに関しての話題を純平は呟いた。

「あいつ、本当にまだ生きてるのかな…」
「間違いない。奴の戦いを見ていただろう。あの程度で本当に倒せると思うか」

純平の問いに、輝二はヴリトラモンとの戦い方、そして自分を含めた全員が戦いに挑み傷一つすらつけられなかった事を思い出す。いや、傷をつける前に自分達の技は当たってすらいなかった。
唯一当てられたヴリトラモンの技も、わざと受けていたと見える。
輝二の問いかけに、誰もが肯定の意味をして黙っていた。すると、そこでまだ拗ねている拓也が口を開いた。

「まぁいいや。今度会った時はあの目玉野郎をぶっ潰してやろうぜ。皆で力を合わせればあんなの大した事ねぇって」
「「「……」」」
「へんっ」

やはり拓也の言葉にだけ子ども達は反応せず、そのまま前へと歩き進める。自分が何言っても返してくれない、そう察した拓也は更に唇を尖らせながら拗ねていた。

「どうする?これから」
「どこか、安全な場所を探して…これからの事を考えよう」

泉の問いかけに、輝二は次に自分達がするべき事を提案として出した。
安全な場所、という言葉に、ふと友樹は歩みを止めた。それに振り返ると、彼は不安げな顔をしながら顔を俯かせていた。

「安全な場所なんて、この世界にあるのかな…」
『友樹…』
「おい輝二!お前が変な事言うからだぞ!大体、さっきの戦いだって――」
「何が言いたい」

不安そうに顔を俯かせる友樹に、拓也は輝二に向けてまるで叱りつけるかのように言う。だが、その言葉も輝二によって遮られる。
何が言いたいのか、そう尋ねられた時拓也があの戦いからずっと思っていた事を輝二へとぶつけた。

「弱気過ぎんだよ!たまには攻める気持ちも必要なんじゃないのか!」
「お前は何も感じなかったのか?」
「え?」
「ダスクモンと戦った時、お前は何も感じなかったのかと聞いているんだ!」

ハッ、と拓也の脳裏で再生される先程の戦い。
自分の掴もうとする腕をまるで最初から自分の攻撃の手段が分かっていたかのように消えて背後に回っていたあのデジモン。自分は何も出来ずにそのまま小さい体に投げ飛ばされた事。
今までのデジモンの中でも明らかに力の差を見せつけられた。
それだけで、拓也の悔しいという気持ちは膨らみ、拓也は歯を食いしばる。

「でも――「そうじゃメシにしよう!」ッだあああ!何だよ!人が喋ろうとしてるってのに!」
「怒りっぽくなっているのは腹が減っている証拠じゃ。まずはメシを食って落ち着いて、それからゆっくり考えるんじゃ」
「さんせーい」「あたしもさんせー!」「僕もー!」『私も!』
「そういえば、腹減ったな…」

ぐぅぅっと丁度良いタイミングでお腹を鳴らす純平。
メシの提案を出したボコモンと、その乗りに乗った他の子ども達のお蔭でその場の空気が僅かに穏やかになる。
すっかりその場はメシの事で雰囲気が変わった時、眉間に皺を寄せていた輝二も口元を緩ませる。
だが、直ぐに拓也と目が合った時、またお互いに睨み合った後、拗ねたように目線を逸らす。

「……」

そんな子ども達の様子をウィッチモンは静かに眺める中、拓也達はどこか休める場所を探しに再度歩き進める。
少し歩いた所で丁度良い感じに隠れ家になりそうな場所を見つけると、そこを拠点として子ども達は今必要な物を探しにグループへと分かれた。

「結衣!一緒にメシになるもん探しに行こうぜ!」
『え?』

泉と純平ボコモン、ネーモンは焚き火を起こす係、輝二とウィッチモンは水を汲む係、拓也と友樹はメシとなる食べ物を探す係に決まりかけていた。そんな中結衣はどうしようか、と悩んでいれば拓也が友樹を連れてそう誘ってきた。
普段ならそのお誘いに快く受け入れていたが、先程の戦闘の後の輝二とのやり取り。そのやり取りを見て、今は何故だか拓也を受け入れがたくなってしまっていた。違和感とでも言うのだろうか、しかし結衣自身何をすればいいのか分からなかった今、無意味に断る必要も避ける必要もないだろう。

『うん、いい――』
「結衣は俺の方を手伝ってくれ」
『うわっ!?』

いいよ、と言おうとした瞬間、急に何かに引っ張られた。そして、自分の言葉と被せてきた人物が自分を引っ張っているのだ、と理解した時自然とその人物へと視線を移す。
移す際、拓也の眉間に皺が寄った気がしたが。

「なっ、輝二いきなりなんだよ!」
「結衣、ほらバケツ」
『え、あ、うん…』
「行くぞ」

もはや言葉すらお互いに交わすのをしないのだろう。拓也の言葉にも輝二は耳を貸す事もせず拓也にも結衣にも有無を言わせない輝二はひたすら結衣の腕をひたすら引いていった。
どかどかと川のある場所まで結衣の腕を引いていく輝二の後ろ姿に、拓也は更に眉間に皺を寄せる。

「何なんだよ輝二の奴!」
「拓也お兄ちゃん…」
「もういい行こうぜ友樹。大体、結衣もハッキリすりゃいいんだよ」

ふんっと去って行った二人の方へ背中を向け、友樹の横を通り過ぎそのまま拗ねたように二人の事を言う拓也。
そんな彼の背中をまた不安が募った友樹が追って行った。




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