act.1 (1/8)



劈くような叫び声が目の前で聞こえた。
原因が何なのかも、分かっている筈なのに、動けなかった。
見てしまった、惨劇。
それは一瞬の事で、自分の手はその悲惨な姿になってしまった“彼女”の体を受け止めようとしていた。

****

「お前は誰だ!」

新たな敵の登場。知らないデジモン。知らない、悪の闘士。
そんなデジモンの存在に、子ども達はデジモンの姿でありながらも動揺の表情を見せた。それに対し、大人のような不適な笑みを浮かばせているであろうダスクモンは言った。

「俺か?俺は、闇のダスクモン」
「闇の、ダスクモン…」

強そうだねぇ、と呑気な事を言うネーモンの傍でボコモンは何を思っているのか、そのダスクモンを静かに見つめる。
その目は確かに闇の闘士という存在を確かめる為に…本当にそうなのか、と確かめる為に。
そんなのは知ってか知らずか、ダスクモンは自分の名前を軽く自己紹介してくと、次にアルボルモンを斬り付けたあの赤く波を打つ剣をこちらに向けた。

「お前達の力、見せてもらおう」

赤い剣が大きく波を打つ。一瞬の出来事だったが、さすがはデジモンの身という事か、直ぐに全員は避ける事に成功する。
だが、剣が振られただけにも関わらずその波紋は、地面を抉るように削り、その跡を残す。凄まじい力に子ども達は目を見開かせた。

「何だ、今のは?」
「剣を振っただけなのに」
『地面が削られてる…』
「相手は一人だ!俺達はあのペダルドラモンを倒したんだ!こんな奴に負けてたまるか!
ボルグモン、援護しろ!」
「おう!」

ペダルドラモンは確かに強かった。木々を食べて更に強くなったのを、この子ども達は仲間の一人ひとりが協力し倒したのだ。
戦った事が無いとはいえ、自分達が負ける筈がない。ヴリトラモンはそう自分を信じ、仲間を信じ、ダスクモンへと立ち向かっていく。その姿にボルグモンは後を追う。

「“アルティメットサンダー”!!」

ヴリトラモンがダスクモンに向かっていき、ボルグモンはヴリトラモンに当たらないよう、ギリギリのタイミングで攻撃を仕掛ける。
そして、その攻撃はダスクモンの目の前で爆発すると、その煙に紛れてそのままヴリトラモンが突っ込んで行く。視界が悪くなり、こちらも攻撃がしやすくなる、そう考えたのだろう。ヴリトラモンはあっという間にダスクモンの目の前へと詰めた。

「これでも喰らえ!」

刹那、ヴリトラモンが腕を瞬時に伸ばしダスクモンを掴もうとする。だが、自分は今まで残像でも追っていたかのように、自分の腕はダスクモンではなく掴む事の出来ない煙を掴んでいた。
ダスクモンが、一瞬の内に姿を消したのだ。

「何…!?」

一瞬消えたと思いきや、一瞬の内にダスクモンはヴリトラモンの背後に現れる。そして、ダスクモンは自分より巨体なヴリトラモンを素早い動きで後方へと投げ飛ばしたのだった。
あまりの飛ばされ方に、子ども達は全員ヴリトラモンへと駆け寄る。

「どうした。見せてみろ。お前達の力を!」
「奴はスピードが速い。ボルグモン!ブリザーモン!ヴィータモン!ヒューマンスピリットで戦え!」

ヴォルフモンはたったの二人の戦い方を見て相手の方が素早さは高いと見たのだろう。それを理解した上で、ヴォルフモンは三人にそう指示を出した。
それを聞き、三人は「おうっ」と掛け声を合わせ直ぐに自分の体をデジコードで包む。

『「「スライドエボリューション!」」』

獣型から人型に進化した三人を見て、ヴォルフモンは「行くぞ!」と全員に指示を出す。
そして、ヴリトラモンを抜いた五人とウィッチモンがダスクモンに向かって行った。

「“リヒト・ズィーガー”!」

ヴォルフモンの光の刃が、ダスクモンの赤い剣と交差する。バチィッとお互いの力がぶつかりあい、火花が小さく散る。
互角…いや、表情を良く見てみればヴォルフモンよりダスクモンの方が涼しい顔をしてその刃を防いでいた。

「これが、お前の力か?」
「くっ…皆、頼む!」

一人では絶対にこいつには敵わない。そう察する事が出来たヴォルフモンはすぐさま後方で控えているであろう五人に協力を頼んだ。

「“ギルガメッシュ・スライサー”!」
「“トールハンマー”!」
「“ツララララ〜”!」
『“テンポナーズアロー”!』
「“アクエリープレッシャー”」

四人の直接攻撃とウィッチモンの魔法がダスクモンへと降りかかる。
激しい騒音の中、暗い森が僅かながら光を帯びていた。今のなら流石のダスクモンも傷ぐらいは終えた筈。そう思われた。
技の手応えはある、手加減も無論していない。しかし、舞う砂埃が止んだ時、気付けば五人の前にはあのダスクモンの姿はなかった。

「何処へ消えた…――ッ!」

一体いつの間に、と言わんばかりに周りを見渡す。そして、上空からの殺気。直ぐに真上と視線をやれば、そこにはやはりあのダスクモンが居た。

「“ガイストアーベント”!」

「―逃げろ!」

鎧に埋め込まれている目玉がぎょろりと子ども達を見つめる。そして、焦点が全て一致した時、その眼からダスクモンの手から赤い光線が放射されヴォルフモンの言葉と同時に五人とウィッチモンは避けきった。

闇から生まれたデジモン、ダスクモンは六人の想像を上回る程の強さを持ったデジモンだった。

「この程度か。お前達の力はこの程度の物なのか」

五人が散らばった中心にダスクモンは地面に足を着ける。そして、子ども達を見渡しては期待外れだと言わんばかりに言葉を漏らす。

「―舐めるなよ、目玉野郎…!」

ふと、背後から声がする。その声にダスクモンが目を逸らせば、鎧に埋め込まれた目玉もその声の方を見ようとまるで生きているかのように動く。
子ども達もまたその声の方に振り向けば、そこにはヴリトラモンが、まだ自分は戦えると言わんばかりに自分の体勢を整え立ち上がっていた。






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