act.1 (1/4)



空に禍々しく浮かぶ薔薇の明星の真下を目指し拓也達はウィッチモンと共にトレイルモンに乗っていた。乗車し途中までは子ども同士でこれからの事を話したり何気ない会話を楽しんでいたが、ひょんな事に子ども達は自分のデジヴァイスを手に取り静かにその画面を見つめていた。

「君のおかげだよ、ブリザーモン。あんなにはしゃいだ事なかったから」
「シューツモン、あたし達デジタルワールドを救う事だって出来るよね」
『ヴィータモン、私達ならきっとどんな壁だって乗り越えられる筈だよね』
「ガルムモン、薔薇の明星に一体何があるんだ?」

腹巻の中に存在するデジタマを愛子ながらボコモンは、子ども達のスピリットに掛ける言葉を耳にしていた。新たな力、自分の可能性、それらを子ども達は今確かめているのだ。開拓精神、というべき物だろうか。ボコモンはまるで自分の子どものようにまた、拓也達の成長を確かに感じていた。
だが、純平一人だけはデジヴァイスに話しかけず寧ろ異様な視線を自分のスピリットに話しかける子ども達へと向けていた。

「皆デジヴァイスに何ぶつぶつ話しかけてんだ?」
「アンタは声かけないの?」
「そうじゃマキ、純平はんもやってみなハラ」
「俺はいいよ、そんな子どもっぽい事」
「アンタも十分子どもよ?」
「楽しいんじゃがマキ」

きっと話しかければスピリットはスピリットなりに応えてくれる。それはウィッチモンだけでなくボコモンも分かっていた。そう、例えば妊婦さんだったらまだお腹の中に居る赤ちゃんの気持ちが分かるような、そんな感覚。
ウィッチモンとボコモンは勧めるが当の純平は頑なにやろうとしなかったので、それはそれでいいのだろう、と思えた。

「おはようございますぅ!モーニングセットはいかがですか?」

トレイルモンに乗ってから何も口にしていない頃、エビバーガモンが手押し車にモーニングセットを乗せ、それらを売りにきた。この様子を見る限りトレイルモンの中で働いているのだろうか、一見子ども達の他に乗客がいない。そんな中関わらずそのデジモンは笑顔で接待を心得ていた。そして、それを聞きつけた泉がデジヴァイスを仕舞い思い切り立ち上がり片手を振り上げる。

「はーい!頂戴!」
「お前金持ってんの?」
「えっ、お金…っ」

欲しい、と言うが拓也に言われお金があるのかを確認。だが、人間界のお金はここの世界には通用しないとつい最近教わったばかり。もちろんこの世界で働いたことのない泉はこの世界のお金を持ち合わせていない。泉は足掻きとしてポケットを無理矢理漁るが、やはりそこには自分の財布しかなかった。
その間にもエビバーガモンは手押し車を押して行き、泉の横を良い匂いを漂わせながら素通りをしていった。

「そうだ!ウィッチモンお金持ってない?」
「残念ながらアタイは金の無い生活をしていたからね、お金は持ち合わせていないのよ」
「市場に居たのに?」
「あれはアンタ達と鉢合わせする為だけよ」
「我慢、我慢」
「そんなぁ…」

エビバーガーモンはそんなやり取りに目もくれず、次の車両へと姿を消した。そこで泉は盛大にお腹を鳴らす。彼女は余程お腹が空いているのだろう、泉は僅かに頬を染めた。
そんな彼女に小さく微笑んで見せると、次にはボコモンがずっとあやしていたセラフィモンのデジタマが揺れた(みたい)それを感じ取ったボコモンの様子はまるで、もはや母親の如く体を揺らした。

途端に、車内が明るく照らされる。
朝日が完全に昇り切ったのだ。あまりの眩しさに目を細め手を傘にしながら外の景色を見据えた。
暫く何もない景色を見た後、段々街らしき光景が見えてきて、トレイルモンはそこまで来ると徐々にスピードを緩めとある街の駅まで着くと止まり出した。

「降りるんだぞー!」
「ここどこなんだ?」
「降りてどうすんだよ?」

トレイルモンに言われるがまま、子ども達はその駅で降りると辺りを見渡す。
薔薇の明星に着いたのか?いや、空を見上げてみるがあの淀んだ空は無い。それとは真逆の白い雲が頭上を飛んでいるからだ。子ども達はここまで乗せてきてくれたトレイルモンに問いかける。

「あたし達、薔薇の明星まで行きたいのよ」
「うおおおおお!!
今日は年に一度のシュッポー祭だ!頑張るぞー!バッファロー!!」

子ども達の問いかけには応えず、大きな汽笛と共に叫びだしたトレイルモンに思わず耳を塞ぐ。何やら気合いを入れていると伺えるトレイルモンの様子に「シュッポー祭って何なんだ」と尋ねるが、そのまま走りだしていたトレイルモンの耳には届かずだった。

今トレイルモンから降ろされ、子ども達は歩いて薔薇の明星に行くのも気が引けたのか、そのシュッポー祭が終わるまでこの街を回ってみる事になった。
街の中を歩いてみれば、沢山のデジモン達が街の中を歩いており、とても賑わっていた。

「何だなんだ?」
「へぇ、今日だったのねシュッポー祭」
「だから何だよそのシュッポー祭って」
「トレイルモンレースよ。トレイルモンの名誉をかけた云わばトレイルモンの為の戦いってやつ。乗る者とのパートナーシップが大事な、ね?」

大きな橋の上。そこから下を覗きこんでみれば、確かにそこには沢山のトレイルモンが並んでいた。それを見てウィッチモンも納得していたのだろう。彼女の説明に子ども達はそんなお祭りがあるのか、と感心するような眼差しで見下げた。

「おーい!俺のパートナーは居ないのかー?」
「優勝したら何か貰えるの?」
「えーっと、去年と同じなら…ハンバーガー「はーい!はいはい!」あらら」
『行っちゃったね』

ハンバーガー、という単語を聞いた瞬間目の色を変えて思い切り挙手をしながらデジモン達の群れを抜けていき、直ぐ下にいるトレイルモンのバッファローの目の前まで来て「あたしがパートナーになります!」と宣言していた。
彼女の空腹はそこまでする程だったのか、この街を見まわっていた時も食べ物しか見ていなかった気がする。
だが、そんな彼女の横から他のデジモン二匹が現れた。

「邪魔だ!俺が乗るんだ」
「グヒャヒャヒャッ」
「今年も俺達が優勝いただいた」

ヴォルフモンとはまた違った狼のデジモン。黒い毛並を持ち、二足歩行のデジモンのワーガルルモン。そして、その隣に居るのは黄色い毛並を持った、可笑しな笑い声を上げるのはドッグモン。口ぶりからしてこの二匹のデジモンが去年の優勝者なのだろう。

「パートナーがあんたらでラッキーだぜ。人間なんかに乗られたら勝てっこねーからな」
「まあ、失礼しちゃうのね」

だが、ワーガルルモンが今年も出場すると聞いた次の瞬間、他のトレイルモンの操縦席に乗っていたデジモン達はかなり怯えた様子で降りて行く。それがどういう訳か分からないが、自分のパートナーを失って早くもトレイルモン達は困ったように声を上げて行く。

「待ってよぉ〜棄権しちゃうのぉ?」
「だったら、あたしが乗る!」
「アンタが?マジ?」

モールが残念そうに呟く隣で、チャンスだと思ったのか泉は自分が乗ると宣言。モールも人間が乗る事に躊躇いがあったのかそこまで乗り気ではなかったが、パートナーがいなくて棄権するよりかはマシだと思ったのだろう。直ぐに受け入れた。
すると、「泉ちゃんが出るなら俺も!」と純平はモールの隣に居たトレイルモンに近寄りよろしく、と言葉を掛ける。
そして、拓也、友樹、輝二も出場し、結衣もまた面白そうという理由で黄色のトレイルモンであるケトルに近寄った。

『私もいい?』
「え?う、うん!もちろんだよ!頑張ろうね!!」
『うん、頑張ろう』

声色からして男の子の声だろう。ケトルの嘴あたりを撫でながらそう尋ねれば、彼は僅かに頬を染めながら承知してくれた。どうやら相性は良さそうに見える。ケトルの許可も貰えた所で結衣は操縦席へと移動した。
結局、一台のトレイルモンを抜かしたパートナーは人間の子どもとなってしまったが、観客側からもこの祭りからも始められそうになって良かっただろう。
全員が操縦席に着くと、トレイルモンは汽笛を鳴らしていき、それぞれが気合を入れていく。そんな彼等の前に天使のようなデジモンが舞い降りた。

「さあ!これよりシュッポー祭の腹、トレイルモンレースの開幕だ!イエイ!
実況はわたくし、ピッドモンがお伝えいたします。スタート10秒前!」

10…9…8…7…6…5…4…3…2…1

ピ―――ッ!!

今一斉にトレイルモン達が走り出した。






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