act.3 (3/5)



デジコードから現れたそのデジモン。
薄い空色の毛並を持ち、顔は金属の仮面、そして首から尾までを覆う甲冑、更にその尾にはまるでドラゴンのような鱗が付いた長い尻尾、四肢にはクリスタルが埋め込まれ、背中にはクリスタルではない随分と毛並みの良い本物の翼が折りたたまれている。前足の埋め込まれたクリスタルは良く目を凝らしてみると“時”と刻まれた文字があった。
仮面の上に付いた角のような物、まるでそれはおとぎ話や神話に登場するユニコーンに近しい存在のデジモン。
その姿は一言で表せば美しい、の一言に限るだろう。女性型のデジモンとは行かなかったものの、これはまさにハイブリット型にして聖獣型にも思える。
穢れを知らない、清き聖獣――…
彼女が獣型の時間の闘志、ヴィータモン。

「へぇ、なぁーんだ。ちゃんとそっちのスピリットあったんだ」
『……』

ヴィータモンはパルグモンを見上げる。パルグモンもまたそれに応えるべくどこか詰まらなさそうな面持ちで黙ってそのヴィータモンを見つめる。
傍ではメギドラモンが待機するのを待ち切れない様子でいる。殺気立つメギドラモンの様子はいつ襲い掛かってきてもおかしくない様子だが、それでもヴィータモンは仮面の下でパルグモンを見つめていた。

「無視してんじゃねぇぞぉーーー!!」
「!危ない、ヴィータモン!」

耐え切れず攻撃を仕掛けるメギドラモン。鋭い爪がヴィータモンを捉え、牢屋で見守る拓也が危険を知らせた。
しかし、ヴィータモンは慌てる事なく折り畳んでいた翼を広げると一瞬にして姿を消し、次にはメギドラモンの背後を取っていた。当たると思われた攻撃は当たらず、地面に突き刺さる爪。メギドラモンはぎょっと目を見開かせる。

『“クロノソルス”』

翼を大きく、そして鋭く羽ばたかせた瞬間、自分の体に埋め込まれていたクリスタルのような石が離れる。それらは尖っている先端をメギドラモンの方へ向けるなり閃光のような光を放射した。
背後を取られ上手く起点を働かせる事が出来ずにいたメギドラモンはそのまま技を食らってしまい、地面と衝突。
ロビスモンの矢でも伏せる事のなかったその体は、フーディエモンの鱗粉のお蔭でもあるが明らかに力が上昇したヴィータモン自身が成せたもの。
敵への技の命中も見て、結衣は獣型スピリットを完全にコントロール出来ているのだろう。暴れる事なく、ジッとそのうつ伏せるメギドラモンを見つめる。これだけで終わる訳がない。
誰もが予想した展開は予測通り。メギドラモンは尾を再度器用に扱い真直ぐヴィータモンへと突き刺す様に迫る。だが、何度も同じ攻撃を受けるヴィータモンではなかった。
ヴィータモンの瞳が光を帯びると共にメギドラモンの尾は急激に動きが遅くなっていき、やがてヴィータモンの目の前で止まる。

「なに!?」
「完璧にビーストスピリットを制御しておる…!」
「攻撃を止めた…!」

『!』

ヴィータモンは攻撃を止めた後、一度離れてから額の角をメギドラモンへと向けながら一気に攻撃を仕掛ける。それは左から、右から、真上から。すばしっこく角度を変えていきながらメギドラモンへとダメージを与えていく。
体中を駆ける様に攻撃を繰り返しては、地面に足を着きすかさず勢いよく飛び跳ね自分の背中に付いている翼を大きく広げ頭上を見上げた。
息を吸うと共にヴィータモンの口元に数字のような時を刻むようなエネルギーの塊が出現し、それが限界の大きさに達した時、その球体はメギドラモンに向かって放たれた。

『“エアロカノン”!』
「ああああああ!!ぢぐじょぉぉおお!!」

反撃も叶わず攻撃をまともに食らってしまい、苦しげな声を上げながら悶える。
それを見て、ヴィータモンは自身の体をデジコードで纏っていく。

『ヴィータモン、スライドエボリューション!――ロビスモン!』

デジコードを纏ったヴィータモンはロビスモンへと変わる。ヴィータモンはメギドラモンに留めを刺した訳ではない。どういう意図で変わったのか、それはロビスモンの手元にあった小刀が意味をしていた。

『“ヴォーパルの剣”!』

翼をもう持たないロビスモンは上空から重力に従いながらその剣を構え、自分より下で転がるメギドラモンへとその刃を突き刺す――

もはや悲鳴とも呼べる叫び声を上げるメギドラモンの体は徐々に色を失くし黒く染まる。同時にデジコードが浮き出て地面に着地をしたロビスモンは小刀を時計に戻し懐中時計へと戻し、代わりのデジヴァイスを手にした。

『悲しき哀れな魂よ、このデジヴァイスで時の流れと共に浄化する!デジコードスキャン!』

デジヴァイスがメギドラモンのデジコードをスキャンしていく。
全てのデジコードをスキャンした事で、メギドラモンの形をした影は消えていき小さなタマゴが現れる。
今までの体験上で言えば、スキャンされたデジモンはタマゴになるか退化するか。タマゴになったデジモンはどこかへと飛んでいくのが通常だと思われていたが、このワンダーランドでタマゴになったデジモンはどこにも行かず、その場に留まった。
それに気づかず、ロビスモンは自身をデジコードで包むとそのまま結衣へと姿を戻す。その際、メギドラモンを倒した影響で同時にガシャンっと何かが倒れる音が聞こえてきた。

「結衣―!」
「結衣さぁーん!」
『!拓也、友樹、みんな…!』

どうやらその音は檻が壊れる音だったらしい。メギドラモンを倒せばその檻は自発的に壊れる仕組みだったらしく、漸く解放された拓也達は激戦を繰り返していた結衣の元へ駆け寄る。
結衣もまた歓喜のあまり駆け寄る仲間たちの元に同じ様に駆け寄り抱き着く友樹を受け止めながら「良かった、」と何度も言葉にした。

「一時はどうなるかと思ったけど、アンタらが無事で良かったよ」
「これも、結衣がビーストを手に入れてくれたお蔭だな」
『ううん、私は何もしてないよ。ただ、泉の言葉とヴィータモンのスピリット、自分の未来を信じたかっただけ…』
「結衣…」
『ごめんね、泉。本当に…私バカだよね、仲間である泉の言葉を信じないで敵であるパルグモンの言葉を信じて…友達、失格だ』

この世界に来る前の自分の発言を後悔した。あの時の自分で確かめようともしないで、他人の言葉に振り回されて、勝手に八つ当たりして、挙句の果てにはヴィータモンの存在までをも否定していた。こんな自分はきっと伝説の闘士の意志を受け継ぐ権利なんて無いと思う。
だけどこの事があったからこそ、自分がどうするべきか見直せる事も出来た。自分の道は自分で切り拓く。それはきっと難しくて、時には他人の意見に惑わされてしまうかもしれない、大きな壁なのかもしれない。
だけどそれを乗り越えてこそ、自分の道が見えてくる筈…いや、道は自分で見つけてみせる。

泉に頭を下げて謝罪の言葉を口にすれば、目の前の泉は小さく溜め息を吐いた後、直ぐに結衣の両肩を掴んだ。
叩かれる、のだろうか。と予想してみたが、それとはまた違った物が返ってきた。

「確かにあたしは信じて貰えなくて傷付いたわ…だけど、最終的にあたしの事を信じてくれた。だから、それで許してあげる」

ぎゅうっと、泉が結衣を抱き締める。声は震えていたが、彼女は確かに結衣を許していた。
そして、結衣もまた泉に許された事で、彼女を思い切り抱き締め改めて自分は彼女にとって大切な仲間、大切な友人としていられるんだ、と思えたのだ。
そんな二人の抱擁を見て、他の子ども達は微笑ましそうに見つめた。





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