act.3 (3/4)


結衣が輝二と行動を共にし、純平と友樹がパグモンに追われている頃。森の中にある木に見立てた家を見回していた拓也はようやく人数が少ない事に気付いた。

「あ、なぁ友樹は?」
「純平も結衣って子もいないわ」

泉へと声を掛ける拓也。しかし、泉もまた声を掛けられるまでその三人がいない事に気付いていなかったのかそう答えた。
どうやら両者共、三人といつ逸れたのかも、逸れた事に気付かなかったのだろう。
すると、家の中に入っていたボコモンとネーモンが家の窓から顔を出した。

「観光してるんだよ、きっとな」
「人間には珍しい町なんだろ?」
「そうなら良いんだけど…」
「……」

観光している。ボコモンの言う通りなのかもしれない。しかし、それは純平という少年だけならまだしも、と拓也は腕を組んで考え始めた。
拓也もまた、友樹はこの世界に良い印象を抱いていない事も、無理やりあのトレイルモンに乗せられたという事も知っている。
そして、結衣という少女。彼女も自ら行動を起こすという性格ではないだろうと察していた。更に先ほどの事を思い出し、拓也と同じように友樹を一番に心配していた。
そんな彼女が、珍しいからと言って二人と一緒に行動をするのか…。

「探しに行こう。もしかしたら俺たちと逸れたのかもしれないし」
「そうね」

迷子になって先ほどのデジモンみたいに襲われていても大変だと、拓也と泉の意見が一致した所でボコモンとネーモンもまた行動を共にし町を後にした。

友樹ー!結衣ー!純平ー!
声を上げながら、三人の名前を呼び探し始める二人と二匹。いつから逸れたかは分からないが、行動出来てこの町か先ほどのターミナルの所までの範囲。すぐに見つかるだろうと期待したのだが、一向に返事の方が返って来ないどころか姿もまるで見えない。

「どうしちゃったのかしら…」
「うぅーん…おぉーい!ポヨモーン!人間の子ども見なかったかーい!」
「「「町の方に行ったよ!パグモンに虐められてね!あっちの方!」」」
「えぇ!?そりゃ大変だぁ…」

拓也達の数メートル先を横断する小さなデジモンの行列。ボコモンは彼らに呼び掛けて尋ねればどうやらポヨモンというデジモンは人間の子どもを見たらしく、口を揃えて答えてくれた。
しかし、結果の方は良くなかったらしくネーモンの閉ざされた目が一瞬開かれたと同時に冷や汗が垂れる。

「パグモンって?」
「苛めっ子のデジモンじゃい」

こういう時に嫌な予感というものは当たってしまうのか、やはり逸れた三人はデジモンとのトラブルに巻き込まれていた。
拓也はポヨモン達の向いた方へと顔を向け、険しい顔をした。

――――――…………
――――………

「友樹ー!結衣ー!純平ー!」
「どこなのー?」

「はりゃーこの辺りはこんなんじゃったんかい〜驚きだぁ…」
「ほんとだね」

あっちの方、と案内されたのは町よりも奥の方にある森の方。
二人が三人の名前を口にしては呼びかけるが、やはり返事の方はない。ボコモンとネーモンはと言うとあまり町の奥には来た事無かったのか、関心の声を上げていた。
ここら辺になると二匹のデジモンにも頼れないだろう。拓也達は徐々に足を奥まで運んでいく。

「…二人を追うんじゃい!」
「なんだ二人を追うのかぁ」

先に行ってしまった人間の子ども二人を追いかける為、関心している場合ではないと二匹のデジモンは後を追った。


「ったく、どこ行ったんだ…」
「友樹って子かわいそう、望んでここに来た訳じゃないもの」
「あいつ…小学2、3年生ってとこかな、俺が絶対に帰してやる」

トレイルモンの言っていた言葉が本当なら、スピリットを手にし、友樹を家に帰せるのは唯一拓也のみ。それ以外帰る方法が無い今、拓也の中では友樹を人間界に帰せる唯一の手掛かりである。必ず見つけなくては、と責任を抱く側ら。そんな拓也を微笑まし気に、そしてどこか可笑しそうに笑みを浮かべる泉が口を開いた。

「何大人ぶっちゃってっ」
「なっ…俺は五年生だ!あいつより大人だぞ!?」
「え!?じゃあ、あたしと同じ?やだぁ〜」
「?」
「あたしより、年下かと思ってた。あの結衣って子もっ」
「結衣は知らないけど、俺はもうすぐ11歳だ!」
「何月生まれ?」
「8月」
「あはっ、やーっぱあたしの方がお姉さんだぁ〜。あたし5月生まれだもん。3か月、年上ねっ」
「くぅ〜…!関係ねぇよ」

どちらが年上だどちらが年下だと謎のマウントを取られ、更に揚げ足を取られてしまう。
何故か大人ぶりたいこの泉という女子に拓也は腹が立つのを止められない。きっとこの泉という少女と性格上お互いに馬が合わないのだ。なぜ泉と二人きりになってしまったのか、だからと言ってもう一人の少女である結衣と上手く合うかどうかも拓也自身不安だが。
電車に乗って初めて見た時、泉も結衣も可愛いなと思っていたが、泉の性格がこの通りである。結衣もきっと…と決めてしまうのはまだ止めておこう。
とにかく話すのにすら疲れてしまえば彼女を置いて止めていた歩みを進める。
下を向きながら歩いていれば、ふと緑色の草原の中に目立つ白が基調のデジヴァイスが落ちているのを発見した。

「これは…!」

見覚えのある配色のデジヴァイス。段差の淵ギリギリに置かれたデジヴァイスは明らかにうっかり落としてしまった様には見えない。
手に取り、改めてそのデジヴァイスを確認する。

「あ、あの子の…友樹のよ!」

確か友樹のデジヴァイスの配色は白と緑色のグリップだった。それを泉と確認し確証した時、泉の足元が崩れ――

「きゃぁぁああっ!!」「うわぁぁぁぁぁ!?」

泉は反射的に拓也の首に腕を回し、二人仲良く空いていた穴へと落ちてしまった。

「今度は落ちるの?」

落ちてしまった二人の子どもを離れた場所で見ていたネーモンはそんな事をボコモンに尋ねていた。

ドスンっと鈍くも、なぜかそこにだけ溜まっていた落ち葉がクッションになり二人とも大怪我に繋がる事はなかった。

「っ〜…いったぁ〜…!」
「もぉ〜!何なのよぉ〜!」
「…は、」

この状況は一体…。拓也の思考は停止した。
不可抗力とはいえ、自分は今泉に抱き着かれてしまっている。女の子の態勢なんて持ち合わせていない、サッカーバカな拓也自身からしたらこの状況は考えられず思わず頬は染まる。呆然とする中、泉もこの状況を理解したのか、彼女もまた赤面するなり次の瞬間――

「いぃやぁあー!!退いて!!」

往復ビンタの突き飛ばしを食らってしまった拓也。本当に不可抗力である。…というか理不尽ではないだろうか。
突き飛ばした当の本人である泉は一人立ち上がりそっぽを向いた。

「なんだよ!!俺に抱き着いてきたのはお前の方じゃないか!?」

にも関わらずこの仕打ちはあんまりである。拓也が必死にそんな訴えをしては、泉は恥ずかしさとどこからか溢れた怒りで顔を赤く染めたまま振り返った。

「お前なんて呼ばないでよね!?織本泉っていう可愛い名前があるんだから!!」
「……可愛いなんて自分で言ってやんの。」
「いいじゃないの、気に入ってるんだもん…。そんな事より三人を探すのが先でしょ?」
「…あいつ等、この奥に…」

落とし穴の向こう側には機械仕掛けの物が並んでいる。それは道の様にも見えるし、どこかへ誘っている様にも見える。
実際の所結衣と他の二人は別行動をしている為、必ずしもその道の先にいるとは限らないが、目指す物も探しているものも、この先にはあった。






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