act.3 (3/7)


妙に足の速いデジモン。いや、脱兎の如くとはこの事か、明らかにそのデジモンの方が小さな体系をしているのに、素早さでは敵わない。
これでは直ぐに見失ってしまう。白いウサギはまるで自分が追われているのを理解している様に飛び跳ねながら走る。
このまま見失っては、次の情報が分からない。ビーストスピリットの在り処も分かりは――…

『あれ、』

何で、私必ずビーストスピリットの在り処が分かると思ったのだろう。
そんな疑問を抱き油断していたのだろうか、走る速度は緩まっていき地平線のかなたに消えるデジモンの姿を遂に見失ってしまった。

『あっ…!』

しまった、見失ってしまった。走る速度がそのまま緩まっていく。忘れかけていた息苦しさが襲い、膝に手を付き肩を揺らしながら呼吸を整える。
遅れて拓也達が結衣に追いつき、同じく息を整え始めた。

「きゅ、急に走るからびっくりしたじゃない…!」
『ご、ごめん…見失っちゃった』

勝手に走り出した結果、見失ってしまうという結果に申し訳無さが襲い思わず顔を俯かせる。
しかし悔しい。これでまた手がかり無しの状態となってしまった。

「結衣はん、結衣はんが見つけたって言うデジモンはどういうデジモンじゃい?」

遅れてやってきた純平に肩車して貰っていたボコモンが降りてくるなり結衣の前まで移動。
純平はその事に「自分で走れよな!」と文句を垂れるが、ボコモンはそれを無視し自分の本を取り出し、パラパラとページを捲りとあるページを見つけた様で、結衣に見せる。
そこには、丁度ウサギ型のデジモンの容姿が描かれているページがあった。ページを捲る事を特別許可して貰えた結衣はボコモンの本を自分の向きに変え、子ども達もまたページを覗き込む。
それを確認し、結衣はゆっくりとページを捲っていく。

『…違う、この子も、似てるけどこの子も違う……

…あっ!』

ページを捲り先程のデジモンの容姿と似たデジモンを探る。徐々にページを捲る際、そのデジモンを見つけられた。

『この子、さっき見たのこの子だよ!』
「ボコモン、この子の名前は?」
「どれどれ…ふむ、このデジモンは、ルナモンじゃな」
『ルナモン…』

白いウサギの名前はルナモンというらしい。
遠目故にその容姿は確認できなかったが、どうやらそのルナモンは白い体に薄い青みがかった紫色の模様が入っているらしく、額には三日月の模様に長い触覚。お腹や腕にも三日月のマークが施されている。可愛らしい容姿のデジモンである。

「可愛いわねっ」
『ほんとに、でも…』

見失ってしまった今、どうしようもない。再度眉が下がった時、可愛らしいと言った泉が結衣の肩に手を置く。

「白いウサギの正体がルナモンって分かっただけでも十分だわ。後はそのルナモンを探せば良いだけなんだもの」

ね?と励まそうとする彼女の笑みに、言葉に結衣は徐々に内にある焦りが消えていくのを感じ目元を緩めうん、と頷く。
さぁ、後はルナモンを探すだけ。そのデジモンが向かった先に線路は伸びているのを発見した子ども達はその線路を追う事に、足を進めた。

……………
………

線路を辿りながら足を進めていく子ども達。一つの情報を信じ、ひたすら歩き続けた。
先程走ったせいか体力は削られた物の、子ども達には希望が見えていた。
と、ここで子ども達はぽつりと、話題に出した。

「それにしてもさ、時間のビーストスピリットは本当にあのルナモンを追いかけて見つかるのか?」

ウィッチモンの言葉を信じた訳でもなければ、ルナモンを充てにしている訳でもない。ひたすら歩いているが、本当にこのまま進んでいいのか、純平は疑問に思っていたのだろう。
その言葉に思わず一同は足を止める。

「…今までのビーストスピリットの反応からして、普通に歩いているだけじゃダメかもな」
「どういう事?」

普通に探してはダメ、その輝二の意見に泉が尋ねる。他の子ども達もよく分からなかったのか首を傾げている。
輝二はふと、脳裏で思い出していた。
それは、自分がビーストを手にした時、そして拓也、純平、泉、友樹。それらを通して、輝二は一つの推論を出した。

「人型の時は、スピリットの方から俺達の気持ちに応えようと現れた。だが、獣型は違う。俺達が自ら見つけて手に入れていた。つまり、」
「結衣自身がビーストを望み、自ら見つけなきゃいけないって訳か…」
『私が…望んで見つける…』

輝二の妙に説得のある推論に、少なくとも子ども達は自分の獣型を見つけた時、そして仲間たちが見つけた時の事を振り返ってみて、そうなのかもしれないと思い始める。しかし、それも確信は出来ない。結衣以外の子ども達は自身のデジヴァイスに宿るビーストスピリットと見つめ合った。
それぞれ、ビーストを求めていた。悪の闘士を倒す為に、強い力を得る為に、この世界を守る為に――…
ならば、結衣もまた仲間たちと同じ様にそれを望む必要がある。だがそれは、彼女自身難しい課題となっている。だからこそ輝二は敢えて口にしたのだ。
輝二は一息入れ、視線を結衣へと移す。

「お前は、獣型を望む事が出来るのか?」
『ッ、…』
「どういう事だよ輝二?」
「結衣は、ヴリトラモンの暴走を見て以来ビーストスピリットに対する拒絶がある。そうだろう?」
『輝二…っ』

どうして今それを…と言いたげな目で輝二へと視線を送るが、輝二はその方が良いと言わんばかりに彼女と目を合わせた。その視線の居心地の悪さに結衣は耐え切れず視線を外す。そして、ふと拓也の方へと視線を送ってみれば彼は明らかに何かを思う様な、そんな表情をしていた。
ズキン、と心臓に針が刺さったような感覚を味わう。しかしもう輝二が口にしてしまった今、言い訳をする事も出来ず、素直に口を開く。

『…私、ビーストを手に入れてもコントロール出来る自信が無いの…もし、暴走して皆を傷つけたらって…自分が皆を傷つける様な事したくないなって、…そればっかり考えるようになって、段々…獣型を手にするのが怖くなっちゃって…』
「結衣…」

今の所ビースト進化を上手くコントロール出来ている人は泉しかいない。他の皆は野生の本能に逆らえず一度は暴走をしてしまっていた。
それが、怖い。そう告げた結衣は申し訳なさそうに顔を俯かせた。そんな彼女に、泉が近付き彼女の落ちてしまった肩に手を置いた。

「結衣…大丈夫よ結衣!あたしだって不安だったけど気合いで何とかなったし、結衣にだってコントロール出来るわよ!」
『泉…』
「不安な事を考えるより、楽しい事を考えてみましょうよ。例えばあたしだったらフェアリモンの次は何に進化するのかなって考えてたし。それに!あたし達だってもう昔のあたし達じゃない、暴走したあなたを止める事だって絶対出来る筈よ!もしコントロール出来なかったら友達であるあたしが一発かましてあげるんだから!」

ね?とにこりと笑う泉の表情。結衣はそんな彼女の笑みを見て少しだけ元気が出てきたのか小さく微笑んで見せる。怒るような、そして励ますようなそんな彼女の言葉に背中を押された気がしてならない。
うんと、頷いて見せれば泉もまた安心したように笑みを浮かばせた。

「結衣はどんなデジモンに進化してみたい?」
『獣型のスピリットで?』
「えぇ!ロビスモンはウサギみたいなデジモンだし、きっともっと可愛いデジモンになる筈よ!」

ここで、ビーストスピリットはどんなデジモンになるかの予想が始まった。泉の発言に、子ども達はそれぞれ頭の中で予想をする中、結衣はもう想像出来たのか少し興奮気味に発言した。

『ヴリトラモンみたいなかっこいい尻尾が付いてて、ガルムモンみたいにスピードが早くて、ボルグモンみたいな強力な技が出せて、シューツモンみたいなクールな雰囲気で、ブリザーモンみたいにふわふわのもこもこなデジモンがいいな!』
「「「「「…………」」」」」

子ども達の中で想像されていた物が、結衣の発言のせいで早くも崩れていき、代わりに何とも想像のしにくいデジモンが完成した。もはやデジモンというより合体ロボットのようなデジモンに思わず黙り込んでしまう。
そんな彼等に結衣は首を傾げるが、彼女はこの想像したデジモンに満足しているのだろうからとりあえずあまり深入りはしないようにしていた。

「まぁ、カルマーラモンみたいにならなきゃ別に良いけどさ…」
「むしろなって欲しくないな」
「と、とりあえず!総合するとあたし達みたいなデジモンになりたいって事よね?」
『皆のデジモンが合体したようなデジモンになりたいかな』
「なんか…カオス…」

そうかな?と考え込む彼女に、子ども達は実はすごい才能の持ち主だったのでは、と逆に尊敬してしまった。それ程まで自分達の獣型デジモンは結衣にとって気に入られ、憧れの存在になっていたのであろう。
それに関しては自分達も誇らしい。そして、彼女をそこまで元気にする事が出来た獣型デジモンをまた誇らしいとも照れ臭くもなった。

「早くそんなデジモンになる為にも!そして、結衣に勝負を仕掛けた変なデジモンに勝つ為にも!探さなきゃね!」

泉のその言葉に、全員はうんと力強く頷いた。
そう、あの謎のデジモンにも勝負を仕掛けられた。早く獣型スピリットを手にしないと自分達は負けてしまい、あのデジモンに殺されてしまうかもしれない。
何故そんなデジモンが結衣にそんな予言のような事を言ったのかすら分からない。何が目的なのかも分からない。
だけど、あのデジモンにスピリットを奪われる訳にもいかなかった。

「っさ、先を急ぐぞ!」

こうして、子ども達はまた先を急ぐ為、歩き始めたのだった。






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