act.1 (1/4)


「一体、何が…」
「あんたが…拓也がデジモンになっちゃったのよ」
「俺が、デジモンに…?」

突然不思議な世界へとやってきた子ども達に襲い掛かったケルベロモン。そのデジモンとの戦いに見事勝利してみせたのは他でもない人間の子どもである拓也。自分たちと歳の変わらない子どもがデジモンに進化をし戦った。
その戦いが終結するまで見守っていた結衣達も彼が無事だと分かるなり彼の元へと駆け寄る為場所を移動した。どうやら進化し初めて戦った事で疲労が襲ってきたのか地面に膝をつき肩で息をする姿が見られる。
余程負担があったのだろう。心配する子ども達の傍ら、当の本人は自分の身に何が起こったのか自覚しておらず呆然としていた。

「進・化したのだよ」
「進化ァ?どうやって進化したんだ?」

ケルベロモンへと立ち向かう際、確かに拓也はアグニモンという赤い鬼――いや、竜人の様なデジモンに進化して見せた。
一見進化の方法は拓也自身理解していたと思われていたが、この様子を見る限りぶっつけ本番その場の勢いという訳か、はたまた本人の意思で進化していた訳ではなかったのか、すっかり分からなくなってしまったらしく、試しにと自身のデジヴァイスのボタンをあれこれ押し続けても進化はしない。
「進化しろ!進化してみろって!」と物は試し精神でボタンを押し続けていれば、持っていたデジヴァイスは反応を示す様に画面が光を帯びる。これはもしや進化の光…とも行かずピロリンッと小さく音が鳴ったと共に、彼のデジヴァイスから大量のデジコードが放出されていく。デジコードの向かう先は大地が何もない箇所。

「デジコードが戻っていくぞぉ!」

しかしその何も無い箇所に集まったデジコードはやがて形を成していき、デジコードはやがて大きな自然を呼び戻し、緑豊かな森を彩った。二匹のデジモンは最初こそ驚いていたが次には嬉しそうに笑みを浮かばせていた。

「…何なんだ?」

何が起きたのか、子どもたちはただただ茫然とするだけだった。

―――――…………
―――………

「ハラー!やったじょい!やったじょい!」
「町が〜」

見える景色に更に色がついた。駅に居たデジモン達はその光景を見るなり一目散に現れた自然の町へと向かっていく。
子ども達と一緒にいた二匹のデジモンもまたそうで、跳ねるように嬉しそうな笑顔を浮かべながら森の方へ駆けて行く。どうやら今現れた町がこの子達の住家なのだろうが、一体何が起きたのか分からない拓也達はとりあえずと追いかける形で向かっていく。

「ワシはボコモン!あんたがデジコードを元に戻してくれたおかげじゃい!」
「オレ、ネーモン。それで失われた大地が蘇えったんだよぉ〜」

腹巻をしたアヒルの様な口を持ったデジモンの名前はボコモン、糸目で黄色い体色を持ったデジモンがネーモン。彼らはそう自分の事を名乗った。走りながらの自己紹介とはまた斬新だがこの二匹のデジモンも足を止められない程に喜びを表しているのだろう。
ならばこちらも応えようと自己紹介を始めた。

「俺は神原拓也!デジコードで大地が戻るってどういう事?」
「このデジタルワールドはな、こんな虫食いだらけのとこじゃなかったぞい」

虫食い、という程この世界の全てを見た訳ではないが、先ほど拓也のデジヴァイスから放出されたデジコードとやらが大地に変わったのは確か。
理解するにし切れない子ども達にボコモンは「ところが!」と腹巻から徐にあの分厚い本を取り出し開く。先ほどもその本を開いてケルベロモンの事を説明してくれていたが、どうやらそこにはデジモンの事だけではなくこの世界の事も詳しく書かれてあるのだろう、ボコモンはそのまま説明を続けた。

ケルビモンの魔力によって多くのデジモンが暴れ出した。
その影響によりデジタルワールドのいたるところが消滅していった。失われた大地を元に戻すにはデジコードが必要だという事を簡単に分かりやすく説明をしていった。
駅から離れ木々が生える町に入る。
子ども達は自分の携帯だった物のデジヴァイスを見つめる。ボコモンの言う事が本当ならば、先程のアグニモンはこのデジヴァイスでデジコードをスキャンし、この大地を甦らせた。今も尚失われた大地があるのなら、自分のデジヴァイスでも集められるのではと答えに辿り着いた。

「このデジヴァイスで…」

デジコードを集められる。ならば、色は違えど彼と同じ形のデジヴァイスに変わった自分の携帯でも集められるのか。泉も自分のデジヴァイスを空に翳しては「ねぇ、あたしのでも集められる?」と尋ねていた。その問いに誰も答える事は無かったが、「どうなの?」と再度催促すれば近くに居た拓也に問いかければ彼もまた他人事の様に「ん−…大丈夫じゃないか?」と呟いていた。

不思議な形をしたデジヴァイスと呼ばれた端末。
結衣は特に二人の会話に交わる事なく、自分のデジヴァイスの画面を歩きながら見つめた。
まさにそんなデジヴァイスに夢中になっていた三人の子ども達は自分たちの後を付いてきていた二人の子ども達がいなくなっている事に気付かなかった。

――――――…………
―――………

木に見立てた家の数々。どうやらここがボコモン達の住まう家なのだろう。
その家が見えるとデジモン達はそれぞれ自分の家に入ったり懐かしいと口にする。その光景が微笑ましく、結衣は口元を緩める。
この生き物たちが怖いと思っていた自分がいたが、今は家に帰りたがっていた小さな子どものように見える。
と、ここで結衣は気付いた。

『…あれ?友樹君と純平君は…?』

この子たちと同じように家に帰りたがっていた小さな背中を思い出す。確か友樹と名乗った小さな少年と、ふくよかな体格の純平の姿が見当たらない。結衣は周りを見渡す。自分の目の前には拓也と泉がまだ集中してボコモンの話しを聞いている。
二人、足りない。
知らない間に逸れてしまったのだろうか…?ただの観光だとも思えるが、この世界に来て泣いていた友樹が果たしてそんな事を思うのか…。何にせよ逸れたのなら捜しに行かなければ。結衣は拓也達から一度離れ二人を探しに向かった。






×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -