act.2 (2/6)


触れたいのに触れられない、関わりたいのに関われない、その気持ちはよく分かっているよ。

「あの島はゴマ島と言って私達ゴマモン一族の島なんですゴマ」
『危ないってどういう事?』

一度陸に上がり、ゴマモンが拓也と泉を泳いでいくのは危ないと告げる。それを聞いて、子ども達はゴマモンに何故その島に行く事が聞けんなのか尋ねる。

「実は、ゴマ島の近くには物凄い渦潮があって、島へ渡ろうとすれば渦に巻き込まれて溺れてしまうゴマ。
ゴマ島は断崖絶壁に囲まれていて、上陸出来るのは私達が住処にしている小さな砂浜だけだゴマ…」
「じゃあ、お前達はどうやって島に帰ってくるんだ?」
「…帰れないゴマ」
「帰れない?」

物凄い渦潮が島の近くにあるのなら、これだけ多く居ても小さなゴマモン達は飲み込まれてしまうだろう。そんな彼等がどうやってその住処に帰る事が出来るのか、拓也がそう尋ねてみるがどうやらゴマモン達は帰る事が出来ないらしい。恐らく渦の向こうから見える自分達の仲間を眺めるだけ、となってしまっているのだろう。

「前は、渦は無かったゴマ。
私達が買い物に出かけたある日、大きな地震があったゴマ。その時に渦が現れて、それっきり戻れなくなったゴマ」

原因の分からない自身、ボコモンが言うにはきっとこのデジタルワールドが虫食いになった時であろう。その渦もケルビモンの魔力の所為で生み出されてしまったのではないか、と仮説を立てる。自身でも海の中でも影響がある。
それを聞いて、子ども達は難しそうな顔を浮かばせた。

「海を渡るのは無理って訳か」
「じゃあ、空を飛べるデジモンを探して島へ連れてってもらおうぜ!」
「ああ、そうか!」
「それなら大丈夫ゴマ!」

純平の意見が一番いいだろう、と拓也達は頷くとそのまま踵を返す。空を飛ぶデジモンが見つかれば何とかなるかもしれない、探すのは大変そうだけど。
こうしてデジモン捜しの為森へと目指そうとする。だが、そこで結衣は一度ゴマモンに振り返ると、泉の服の裾を引っ張った。

「どうしたの結衣?」
『泉、ゴマモン達も連れて行けないかな』
「え?…あ、」

泉も気付いた。
何も言わないけど、ゴマモン達は後ろにある自分の仲間の居る、自分達の島を寂しそうにジッと眺めるゴマモン達。

知っている、触れられる距離なのに、触れても良い筈なのに、でも敢えてしなかった。敢えて自分から遠ざかった。
それはきっと、自分の家族とよく似ているからだ。
知ってる、知ってるよ――…

ギュッ、と泉の服の裾を掴む力が入る。それを見て泉は掴んでいる本人の横顔を見た。
何て事のない、普通の結衣の表情。だけどどうしてだろうか、泉自身安心が出来なかった。

「あ、私達の事はお気遣いなくゴマ」
『でも…、』
「渦の近くに行けば仲間達の元気な姿が見られるゴマ」
「だから寂しくないゴマ」
『そんなの…――』  「嘘!!」

そんなの間違ってるよ、そう言おうとすれば泉の言葉に掻き消される。
いきなりどうした物か、と反射的に泉の方を見れば彼女は「任せて」と目で訴えるとゴマモン達の前へと歩み寄っていく。

「本当は島に帰りたいんでしょ?遠くから見ているだけで良いなんて、見えるのに傍に行けないなんて、そんなの…寂しくない訳ないじゃない!!」
『――ッ!!』

――あ、おかえりお父さん
――…ああ

そんな何気無い、会話がいつから…いつから寂しい、と思うようになったのだろうか――…
泉の言葉と、ゴマモンのどうしようもなく耐えている気持ちが交互に結衣の中へと澄み渡っていく。会えない、会う事が叶わない。それが、大きな渦のせいで…

「ねえ皆!あたし達の力であの渦を、消さないかしら!」
『…そうか、消すことが出来れば、ゴマモン達も会う事が出来る!』

泉はそう皆に問いかける。思い切った発想、シンプルで簡単な発想。だけど、今の自分達ならそんな渦を消す事だって出来る筈だ。
結衣もおお!と感心の声を上げる。だが、他の子ども達は納得できないのか、困ったような顔を浮かべている。

「確かに今まで消えた大地を戻して来たりしたぞい…」
「だったらあの渦だって―」
「俺達には無理だ。デジヴァイスが無い俺達には…何も出来ない」

初めて気付いた、無力な人間の子ども。
結衣も泉も、スピリットが無い時、スピリットを無くした時、何度も悔やまれた。そして、それは目の前の拓也達もまた、その無力に気付いた。
失って初めて気付く物。力がある者が誰もが通る道であった。だからこそ二人は皆の気持ちが理解出来るのだ。
泉と結衣は二人で顔を見合わせると、力強く頷く。

『…分かった、デジヴァイスの事は皆に任せるよ』
「ええ。だからあたし達はゴマモン達と一緒に行く」

そう言うと、二人は困ったように笑い合うと、ゴマモン達の元へ寄る。
ゴマモン達は心配そうな顔をしながら寄ってきた二人を見比べる。彼女達もまたゴマモンの視線に合わせた。

「あたし達を渦の近くまで連れてってくれる?」
「あの渦を消すなんて事が本当に出来るのかゴマ?」
『それは分からないけど、でも出来るだけやってみる。だから、もう眺めてるだけで良いなんて言わないで』

ね?とゴマモンの頭を撫でた時、後ろで見ていた拓也と輝二が歩み寄り、二人の傍まで来るとそこで立ち止まった。

「渦を消せば俺達も島に行けるからな」
「デジヴァイスが無くても、お前達をフォローするくらい出来る」
「輝二、拓也…!」
「泳ぎは苦手だけど、僕だって何か手伝う!」
「飛ぶデジモン探すのも大変だしな!」
『友樹、純平…!』
「二人だけでやるなんて言うなよ」
「俺達も仲間だろ?」
『「…うん!」』

みんな、ありがとう。ほっと胸を撫で下ろし、泉とお礼を言った。頼もしい仲間、たまには自分の意見を主張してみるのも、いいかもしれない。そして、皆で何かをやろうとする事もまたいいかもしれない。
これであの島へ向かう方法も見つかった事なので、さっそくその準備に入った。






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