かゆい。
夏の夕方、どうやらさっき外を歩いていたら蚊に刺されていたらしい
捲っている腕をちらと見たら見事にうっすら赤く腫れていた
毎年分かっていることだが絶対に慣れないこればかりは。
いや絶対にない。


少しイライラ、いやだいぶして隣を見たら姫川が携帯をいじっていた。そのすぐ横に、




蚊だ。





姫川は気づいていないが、蚊を発見した。この蚊が刺したという訳ではないとは思うがやっぱり腹立つ。なんかもう微かに聞こえるような気がする羽音がもうかゆい。よし殺ろう

そいつは携帯をいじっている姫川の頬辺りを旋回して、止まった。姫川は気づいていないらしくそのまま変わらず携帯作業中だ

これ、言ったら姫川が動いて逃げるよな多分
このお約束的な雰囲気に任せていっちゃって良いんだろうか

……良いか。



「動くなよ」

「………あ?」


姫川が携帯から顔を上げようとした瞬間、




パァンッ!!







乾いた音が辺りに嫌に響いた


「あ、逃がした」

「…………」

「悪い」

「………………なぁ今何をおこしたんだ説明してくれ神崎」

「蚊」

「そこまで力込める必要があるか!?」

「悪いって言っただろうがはげ」

「……まぁいい」


恋人に免じて許すとか何とか聞こえたような気がしたが紛れもなく俺の気のせいだ
姫川は少し赤くなった頬を納得いかないというように擦りながら再び携帯に視線を落とす

そうしたら携帯ばかり見ているこいつに何故かだんだんまたイライラしてきて。
なんだそれそんなに大事なのかそれ
そしてそれに便乗してさっき生き延びたあいつの羽音がまた耳を掠めて


俺の かなり短いと自分でわかっている我慢の切れる音がした



ガシャン!というあとに気がついたら俺は姫川にかかと落としを決めていた
まさか不意討ちのかかと落としが来るとは思ってなかっただろう姫川は座っていた椅子から後ろにそのまま倒れていた
漫画とかで有りそうに綺麗に
視界のすみに入ったリーゼントはそのまま崩れない腹立つ





「蚊」

「…………よし取り敢えず表出ろ」

「姫川」

「あ?」

「死ね」

「何この理不尽!」





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今日は姫川の厄日
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