熱に浮かされた頭では今さら思考を巡らせようとしてもすでに時遅し、というやつで、俺の頭を掻き抱く空に何か言わねばと口を開きかけるが、薄い唇の隙間から漏れるのはただひたすらに熱を孕んだ呼気だけだ。
俺たちは別々の人間であり、別個として独立した生き物だ。例えばそれは所謂生殖やら繁栄やらを目的とした、俺たちには何の意味も成さない接触(もっと野性的に言葉に収めるならおそらく交尾と称するべきなのだろうが。)の最中であろうと理として確固としてそこに存在する。繋がった部分は焼かれていると錯覚するほど熱いのに、俺には空の考えていることの一部も理解することは出来ないのだ。理不尽だと思った。奴は俺の仕草から逐一思考を、それこそまるで単純な計算問題を解くかのように簡単に、そして的確に微たりとも本心と違わない結論を弾き出すというのに、俺はその方法を知り得ない。それは空が俺とは比較にもならないほどの鋭い洞察眼を持っているからだとわからない俺ではないが、それでも持て余した感情の行方を知ることなく、沈殿するばかりの空虚がこんなにも寂しい。



「う、ぁ、あっ」

「ええ声やな」

「ば、か!」

「褒めとるんやで。これが嘘か真か、わからんお前やないと思うけどなぁ?」

「んっ」



ああそうだ、そんな単純な駆け引きに惑う俺じゃない。それでもこんなに胸が苦しくて、熱を持つ中心が痛いほどに心地好くて、俺の頭を抱えて唇を寄せたこの男の全てを受け入れてしまいたいとさえ思った、俺は疾うに狂っていたのだろう。狂気の沙汰。それもこれも愛情次第だと、奴は笑ってくれるだろうか。もっとも俺たちの間に存在する見えない何らかの糸、おそらく絆と定義付けられるそれにより近しい名を付けるにしろ、きっと空は愛などとは宣わない。それでいい。縛るだけの言霊ならいっそ無に帰した方がマシだ。



「集中しとらんやろ」

「してる、さ」

「うーそ」

「うそじゃ、ない。空のこと、しか……考えてねえ、よ」

「おっそろしく不似合いな言葉やのぉ。明日は槍が降るわ」

「ほっとけ、」

「ま。槍が降ろうと血が降ろうと関係あらへんけどな」

「ぁ……っ」



ぐり、と重ねられる肌の奥が疼いて、らしくもない声が自然と声帯を震わせて。女みてぇなそれに空が満足げに喉を鳴らした。ちくしょう。睨み付けても空は俺への優位性をまざまざと俺に見せつけるだけだ。性悪め。憎まれ口の一つでも叩いてやりたいが、どうにもこうにも言葉が形としての原型を留めそうにないからやめておく。そうだ、それに託つけて接吻でもくれてやろうか。
空は、何と言うだろう。
俺を見下ろし、何も言わずに髪をすくだろうか。口の端を吊り上げて悪戯を思い付いた餓鬼のように笑うだろうか。想像はできないが、不意打ちに取り乱したりするのだろうか。
嗚呼、それとも。



「薬馬、」




それとも。

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