人間って不思議だよね、とシャルルが言う。
 だって、俺たちを置いて勝手にどこかにいってしまう、ねえ、マスターだって実はそうなんじゃないの。

「不思議と勝手は違うんだけど。あ、これ美味しい」
「メルシー、……じゃなくて、えっと、なんて言えばいいかなあ」

 シャルルは言葉を探すように、うーんと唸る。銃身のままならそんなことを考えたりもしなかっただろう。人間の身体を得て、心を知った、それまで人間に寄り添っていた銃。銃は人間と同じように生きていくことは叶わない。

 彼の作った砂糖菓子を口に入れながら彼の言葉を待つ。口に入れればぽろぽろと崩れていく。ここにきて甘いお菓子を食べることができるようになるとは思わなかったな。
「最初は確かに俺たちと一緒にいたよ、俺のことを使ってくれた人たちがいた、それは覚えてる。でも、その人たちは今ここにはいないじゃん?」
「そりゃあ、まあ、寿命とかあるわけだし」
「そう。俺たちだって折れたり壊れたりすれば終わり。人間だってそうでしょ。わかってるけど、」
 ふ、と言葉を区切る。考えながら話すのって難しい。人間だって難しいと思うのに、それをさっきまで銃だった彼がするのはもっと難しいだろう。なんやかんや、器用にできてしまうのがシャルルだよなあ、とは思う。その予想通り、一瞬だけ目を逸らしてすぐに口を開いた。

「ひとは、もろい」

 俺たちはマスターになおしてもらえるけどさ、マスターとか恭遠さん、他の人たちはそんな簡単にはなおらない。それが、勝手だなって、思う、思って、しまった。

「置いていかれるのも、置いていくのも、嫌なんだよ、俺。どうしたって君と一緒にいたい」
 いつか、確かに聞いた言葉。泣きそうな顔をしていた。そんな顔するなよと言えればよかった。

 そう、きみは、きみたちは、銃という物だ。直ると治るはちがう。俺は、きっときみたちを置いて逝く。銃と人では生きる時間がちがう。言ったことは、ないけどさ。きみたちは優しい。人のために力を貸してくれている。銃身だった頃と違って、自分の意思も身体もあるというのに。そんな彼らに別れのことを伝える気にならないのは、俺という一個人のエゴだ。
「俺は銃で、使える人を選べなくて、それが当然のことだった」
「シャルル、」
「でも、さ。今このときだけは、俺は自分で選んでここにいる。呼んだのはマスターだけど、それでも、俺は君と一緒にいる」
 ね、マスター。そう言うきみはとてもうつくしく笑っていた。