:薔薇の砂糖菓子を作ってほしい、と言ったら(シャルル)

「どこから漏れたんだろう……」
「ナポレオンさんしかいないから安心して」
「ぜんっぜんできない……あれ大変なんだよ、マジで」
 真剣に嫌そうな顔をされてしまった。別にそんな顔をしなくたっていいじゃないか、とちょっとだけ思う。嫌なら何も言わないし強制なんてできないんだけど。
「でもちょっと見てみたい」
「…………」
「シャルルにしかできないことだよ」
「……、……あー! もう! 一回だけね!」






:お菓子を作ってほしい、と言ったら(カトラリー)

「なんで僕なの。タバティエールとかいるでしょ」
 そう言うと思った。から、用意していた言葉を口にする。
「カトラリーが、いい」
「……、……」
 ぴくりと眉が動いた。彼は何も言わない。その代わり、少しだけ唇を噛んだ。
「……いつか、作ってよ」
 その声は思ったよりも小さくて、けれども君には聞こえていたはずだ。肩が揺れたのを見逃しはしない。
 君と、約束をしてみたかった。






:ギターを弾いている姿を見たい、と言ったら(エンフィールド)

「ええ、いいですよ。何を弾きましょうか」
「エンフィールドの好きな歌、聞かせてほしい」
 一瞬だけ息を詰めた。それをこちらがつつく前に彼は、はい、と綺麗に笑った。






:ギターを弾いている姿を見たい、と言ったら(ベス)

「……………………嫌だ」
「え、なんで」
 少しだけ意外だった。最近弾き始めた、ということを教えてもらったから見てみたいなあと思ったのだけれど。
「…………おまえに、聞かせられるようなものじゃない」
「えー、それが聞きたーい」
「おまえ……意外といい性格してるよな……」






:小さい頃の夢たちをなんでもないふうに語ったら(スプリングフィールド)

「まあ、全部諦めちゃったんだけど」
「そっ、か」
「今ここにいることが嫌だとか、そういうわけじゃないよ」
「でも、でもさ」
 彼の青い髪がふわりと揺れる。星を散りばめたような瞳はまっすぐに射抜いた。
「俺はぜーんぶ、素敵な夢だと思うな!」






:付き合わなくていいからずっとそこにいて、とどうしようもない感情を吐き出してしまったら(マルガリータ)

「いいよ」
「は、」
 いつもの笑顔で、きみは頷いた。喉と鼻の奥が痛い。どうして、そういう、ことを。
「え、うわ、マスター!? なんで泣くの!?  どっか痛い!?」
「そう、そういうとこだよ、きみ」






:付き合わなくていいからずっとそこにいて、と言うつもりのなかった感情を吐き出してしまったら(カトラリー)

 しくじった。訂正をしようと勢いよく彼の顔を見れば、驚いたような、けれどどこか困ったような、そんな顔をしていた。
「ごめ、ん」
 言うつもりなんて、なかったんだ。君のそんな顔なんて、見たくなかったんだ。本当だよ、ごめんね。
「……いい、けど」






:傘がなくて雨宿りをしている時に迎えに来てほしいと思っていたら(ベス)

「う、わ。タイミング」
「なんだよ」
「なんでもない」
 傘は二つ。そりゃそうだ。でも、迎えに来てくれたという事実だけで舞い上がれてしまうから特に問題はない。






:絶対絶命の時に、全てを投げ出して逃げてしまいたい、とこぼしてしまったら(シャスポー)

「わかった」
「え、なに、が」
 ぼろぼろの彼が真剣な瞳で見つめてくる。泣き言を吐いてしまった自覚はある、けど、これは。
「大丈夫、僕が君を守るから」
 どこへだって、連れていってあげる。だから、どうかその手をとって。






:絶対絶命の時に、全てを投げ出して逃げてしまいたい、と言ってはならないことをこぼしてしまったら(シャルル)

 はっとして口を抑えた。いま、なにを。目の前には傷だらけの彼がいる。聞こえて、しまっただろうか。
「……やっと言った」
「え、」
「逃げるよ、マスター」
 口を抑えていた手をとって、彼は走りだす。きっと、最初から確保していたのであろう逃げ道だ。
「絶対に、生きて帰るから」
 逃げることは悪いことじゃない。だって君は簡単に死んじゃうんだよ、そんなの、絶対に嫌だ。






:髪を結ってほしい、と頼んだら(エカチェリーナ)

 ぱちぱちと瞬きをする姿は本当に女の子のようだ、と感心してしまう。
「ぼくが、ですか?」
「だめならいいんだけど……」
「いいえ? だめ、なんて一言も言ってませんよ」
 ふふ、と楽しそうに笑う彼は櫛をくるくると回した。
「とびきり似合うものにしてあげますー。まあ、ぼくのほうがかわいいですけれど」
「存じ上げております」






:尊敬しているあのひとの話をして、と言ったら(ニコラ/ノエル)

「陛下はね、本当にすごいお人なんだよ」
「そうそう。この前なんか、敵を一気に倒しちゃったんだ」
「ぼくらもいつか、あんなふうになりたいなあ」
 きらきらと尊敬のまなざしを彼に向ける。陛下の話をする時が、一番いい顔をする。その顔が見たくて、こういうことを聞いた。
「二人とも、本当に陛下が好きなんだね」
 ぱちりと瞬きをして顔を見合わせて、満面の笑みを浮かべる。
「もちろん!」






:尊敬している彼の話をして、と言ったら(エンフィールド)

「ど、どこから始めればいいですかね……」
「えっそんな長いの」
「当たり前じゃないですか! 大英帝国の歴史を作り上げた先輩なんですから!」
「歪みないよねほんと……」
 そういう反応をされるとは思っていたけれど。とは言わずに彼の淹れてくれた紅茶を口にする。やっぱり淹れるの上手だなあ。






:駆け落ちがしたい、と呟いたら(マルガリータ)

「え、マ、マスター、そういう人がいるの!?」
「目の前に」
 めのまえ、と言葉を繰り返してようやく理解したのか、自分を指さした。
「オレ!? え、え? マジ?」
「迷惑なら迷惑って思ってくれていいよ。でも口にはしないでね、立ち直れない」
「そ、んなわけないじゃん!」
 迷惑だなんて思わないよ、マスター。オレはマスターとならどこにだっていけるんだよ。だから、だからねマスター。そんな、迷子みたいな顔をしないで。






:世界を呪いたい、と呟いたら(シャルル)

「マスター、はい」
「……なに、これ」
「ココア。味は保証するよ」
 ゆらゆらと揺れるココアに自分の顔が映った。顔を逸らしたと同時に、シャルルに呼ばれる。
「これ飲んで、それでもその思いが変わらないなら俺も手伝うよ」
 いつもと変わらない声音で彼は告げる。そんなこと、させられるわけないし、ていうか分かってて言ってるでしょう、シャルル。やさしい言葉をかける、ひどいよね。死にたいと呟いたら全力で止めるくせに。






:紅茶を淹れてほしい、と言ったら(ベス)

 快く引き受けてくれると信じているあたりが慢心って感じ。もう一人の彼なら問答無用でコーヒーを淹れることを信じていた。
「紅茶淹れてるの見るの、わりと好き」
「見るのが好きなのか?」
「紅茶も好きだけど」
 最初の頃、こうやれば美味くなるんだ、と言いながら淹れてくれたあの味を忘れない。あなたの手は、敵を撃ち抜くのと同じくらい簡単に、美味しい紅茶を淹れるためにあるのだろう。






:誰にも聞かせるつもりのなかった、疲れた、を聞かれてしまっていたら(カトラリー)

 気まずい、どころの話じゃない。誰もいないと思っていたのに。なんていうのは勝手なことだ。それこそ、言ってはならないことだ。
「あ、の、聞かなかったことに、して」
「え」
 ぱち、と彼と視線が合う。すぐに逸らしてしまったことを、彼はどう思っただろうか。
「……君がそうしてほしいならそうするけど。別に、さあ。弱音くらい、吐いたっていいんじゃないの」
 その言葉一つで泣きたくなるの、どうか知らないままでいてほしい。