短編に満たないものとか会話文とか
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お前にだけは言われたくないなあ
:トレイ
もっとちゃんと死ねばよかった。というのが監督生がよく口にする言葉だった。 「死のうとしたことでもあるのか?」 「まさか。そんな度胸ないです、悲しいことに」 悲しいこと、だろうか。俺の目の前で息をしている監督生は欠伸をしながら背伸びをする。ぱき、と小さく肩が鳴った。 「人が一人死のうと世界は変わらないでしょう。だからもっとちゃんと死にたいんですよ」 「接続詞合ってるか?」 「生きている時点で間違いだらけなので大丈夫です」 にこりと綺麗に笑う。「先輩」と呼ぶ声は少しだけ楽しげだった。 「なんだ?」 「先輩はこんなふうに思ったらだめですよ」 いつもいつも、誰といようが何をしていようが頭の片隅で死に方を考える。そんなふうになったらだめですよ。
2021/04/22
意外とちゃんと心配してくれてるんだなあ、言わないけど
:エース
冬だからこそ食べたい、と思う。そりゃまぁあったかいものも食べたいけども、それはそれとしてってやつ。 「カイロの隣にアイス入ってんの、ちょっと笑う」 「やっぱり?」 「自覚はあるわけ」 「まあ、一応は」 「そ」 冬にアイス、という感覚はここにはないのだろうか。エース自身は多分こちらにそこまで興味がないからどうでもいい、という感じなんだろうけど。 「冬、ってさ」 「うん」 「朝、寒いじゃん」 「そうだね」 「お腹冷やさないようにしなよ」 「子供じゃないんだから」
(朝の冷えた空気/カイロ/アイス)
2021/04/10
花に埋もれるあなたが見たい
:リドル
夏に誕生日を迎えるその人は、はたして自身の誕生日のことをどう思っているのだろう。ちゃんと祝われる日だと認識してくれているだろうか。 基本的にはバラの中にいる印象だけれど。夏に咲くあの花たちも、きっとあの人には似合うのだろう、と思う。 「逆に素麺とか似合わなさそうですよね、あと麦茶飲まなそう」 「……それは偏見を言われている、ということでいいのかい?」 「すみません」 「まぁ、合っている部分も少なからずあるけれど」 「え、ど、どれですか、て、あ、ちょっとリドル先輩!」
(朝顔/麦茶と素麺/ひまわり)
2021/04/10
知らない誰かの話
:エース
その日は普段と変わりない日で、いつものように素麺を適当に茹でて、さあ食べるかってときに唐突にインターホンが鳴った。配達とかは頼んでないはずだったから、なんかの勧誘かと思って1回は無視した。けれどその後、小さくドアを叩かれたから、面倒になって覗き穴を確認した。そこには見慣れた人間が見慣れない服を着て少し俯いて立っていた。ドアを開ければ、そいつは顔を上げて迷子みたいな表情で、こう言った。 「死体って、どうしたらいいのかな」 部屋の中では茹でた素麺が伸びきって、冷たかったはずの麦茶はぬるくなっているのだろうなと頭の片隅で思った。
「なーんて、ことがあった、かもしれない」 「嘘?」 「ご自由に」 ぱしゃん、と波が足首にかかる。ここでは海の底は魔法薬さえあれば息ができてしまう場所だった。水死体はあの海ではどうなっているのだろう。先輩たちに訊く気にはなれない。
(海と青/死体埋め/麦茶と素麺)
2021/01/30
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