少年は喘いでいた。
暗い闇で、訳も分からず、走って、走って。
真っ黒の絵の具で塗りつぶしたような闇だった。
何もない。
黒が広がるだけ。
どれだけ走ったのか、ちゃんと移動できてるのか。
――ここはどこなのか。
見えない。何も見えない。
怖くてたまらない。
誰か、何か、いないのか。
はぁ、はぁと短く呼吸をする。
足がもつれ、とうとう膝をつく。もう走れない。
急に訪れた闇に対して、もう恐怖しかない。
何故こうなったのか。これからどうすれば良いのか。
僕、生きてるよね??
少年は誰とも無く問う。返事が欲しい。
自分一人しかいないのが、こんな不安なものだったなんて。
息苦しさで胸が痛くなる。
少年は、何かにぶつかるまで走ろうと思った。
自分にできるのはそれしかないと思った。
ぶつかったところで何かがあるわけじゃないけど、
果てしなく続く空間とか、全く何もない無の場所とか、そういう可能性を否定したかった。
汗でへばりついた髪をはらう。
はらおうとした瞬間、汗ではない、何か生温かいものが手の甲に触れた。
確認しようにも、自分の姿すら見れない闇なのだ。
あぁ、困った。
右手を頬にあててみる。
やはり、何か生温かい液体が。
血、か。
そういえばさっきから血生臭かったけれど、自分から出血していたモノだったのか。
少年は、目からの情報がこないことに、最早恐怖ではなく苛立ちを感じていた。
不便なのだ。
何も見れない。何も分からない。
少年は焦れったく、指先でどこから出血してるのかを探った。
がぽ。
それはふいに。
指が、顔のどこかのくぼみにはまった。
少年は困惑した。何がおきた。
今指はどこを触ってるんだ。自分の事なのに全然分からない。
ぬめり、ぬめりと指先に不快な感触が伝わる。
奥へと指先を進めていく。
『痛ッ!!?』
さっきまで感じなかった痛みが急に襲ってくる。
痛い、痛い、痛い!!
どうしようもなく痛い。
地面にのたうち回って、歯を食いしばる。
痛い!!
大きく長く悲鳴をあげる。
それでも誰の声もしない。
泣きたいのに泣けない。涙が、出ない。
何で、何で。
あ。
少年は分かった事がある。
この血は、目からのモノだ。
この痛みも、目からのモノだ。
何で何も見えないのかも理解した。
顔をどばどば伝う血に、少年は顔をしかめた。
あぁっ!!
僕の、
僕の目どこ!!?