くけ様より相互記念 | ナノ



意識



きっと、果てしなく疲れていたのかもしれない。

心身共に、恋愛に。
でないと、説明も言い訳も付けられない。


例え、夢の戯言であっても。


そぅ、だから。
夢なのだから。
少しくらいなら、と。俺は動く。



「あ、店長。お疲れ様です。」

其処には、目覚まし代わりに。と、ブラックコーヒーを淹れている村上が居る。

「ああ…お疲れ。俺にも淹れてくれ。」
「…はい、構いませんが…珍しいですね」 「あ?」

カップにコーヒーを注ぎながら、村上が笑う。

「…何だよ」
「いや、いつもは紅茶じゃないですか。こんな安いインスタントなんて飲まないと思ってたんで。」

ちらりとキッチン上の棚を見ると、イギリスの高級茶葉が数多く取り揃えてある。
俺が趣味の一貫で集めたものが大半だ。

「いいんだ。コーヒーで。」
「はは、そうですか」
村上は、まだ何か言いたそうに笑ってカップを差し出してくる。


…村上。
お前、よく判ってるじゃないか。
無論、俺が今コーヒー等飲む訳が無い。



差し出されたカップをわざと強めに受け取ると、中にあるコーヒーが波立ち零れた。

「あっ…つう…!ちょっと、店長!」
思惑通り、村上の手にコーヒーが掛かる。

…思ったより上手く行くものだな。

「ああ、悪い村上。 こりゃ冷やさないといけないな」

シンクにカップを置くと、村上の火傷した手を、自分の口元まで持ってきた。

「ちょ!ちょっと店長?!大丈夫です、冷やすなら水ですよ店長!」
「ああ五月蝿い、噛みちぎるぞ」
「あの、ちょっ……」

コーヒーの引っ掛けた村上の手の甲に舌を這わせて舐め始める。
安いインスタントコーヒーの匂いと味が、舌へ脳へと伝わってくる。

…やはり、コーヒーは飲まなくて良いな…。

そして、どうして良いか判らない村上は、動揺しながらも未だ硬直して為すがままの状態だが、徐々に手の体温が上がってきた事に気付く。

嗚呼、熱そうだな。 熱いだろうなぁ。なんて。
親猫が子猫を愛でる様に、丁寧に火傷部分を舐めてやる。

…こんな時でも、馬鹿丁寧に…こんな程度なのかよ。
からかい甲斐が無い。

ふと顔を上げると、火傷以上に顔を真っ赤にさせている村上が目に入った。
…何で涙目なのだろうか。

上目使いのままで、ピチャリと音を立てて更に舌を這わせると、今度は耳迄赤くなり
ズルズルと、その場で座りこんでしまった。


…可愛い奴。
そんな村上に本当…
俺は、何遣ってんだろう…

力無く座り込んだ村上に近寄り、様子を伺う。
眉毛は下がり、涙目、沸騰しそうな程に真赤な顔。
そんな中で、瞳だけは真っ直に此方を見据えている。

…止めろ。
そんな目で見てくれるな。
俺は、そんな真っ直な瞳に応えてやれる程人間が出来ていない。

お前って奴は、何なんだ。
俺の中心線を乱すは何故なんだ。

それでいて時折、心から安心させては穏やかな気持ちにさせる。

村上…お前は、俺の何なんだ…


村上の短めの髪を撫でてやると、ビクリと全身が震える。


もしかしたら…
俺は、お前の事が……?


髪を撫でていた手を頬へ下げ、更に距離を縮める。

…もぅ、考えるのは止めよう。

「村上…」
耳元で名前を呼んでやり、唇を合わせようとした。










「…店長?」
「…え…むらか…み?」
「はい、村上です。って、大丈夫ですか?寝呆けてますか?」

は? いや? え……
なにこれ。? えーと…俺……?

白昼夢…?

ぼんやりと周りを見回してみると、どうやら事務所のソファで寝落ちていたらしい。
目の前にコーヒーカップを持った村上が不思議そうに立っている。

思わず、カップを持つ手を見てしまう。
…火傷の跡は……無い。


困惑しつつも、ふと自分の肩から毛布が掛かっていた事に気付く。

「…これは?」
「あー、俺が掛けました。最近店長は働き過ぎですよ。」
優しく諭す村上の声と、コーヒーの安い匂いが、事務所を漂う。

「つか俺…店長の夢に出てきたんですかね?」
「はっ…はぁぁああ?!」

コーヒーをちびちび飲みながら、恐る恐る村上が聞いてきた。

…俺が今、何か飲み物を飲んでいたなら間違いなく吹き出しただろう。

「いやあの!何回か呼ばれた気がしたんで…俺は何やらかしてんだかなーとか…」
俺がいきなり叫んだ事で、萎縮したからだろうか。
話す言葉の最後が消え掛かりつつあった。

いや、それよりも、自分の状況の方が一番脆くて危うい。

ソファの上で膝を抱え、毛布に顔を埋め、事務所のドアに向かって指を差す。

「……え?」

「…ホールへ戻れ。」

「て、てん…」

「さっさと行け!!!」

「はっはい!戻ります!」

バタバタと、カップを下げてからホール迄戻っていく村上の足音を聞いて……


大きな溜息を吐く。
顔は未だ上げられない。
無理、絶対に今だけは無理だ。


夢の中の村上より赤面になっている事を、悟ってしまったから。


夢だった。 夢だったのだ。
もうぼんやりとしか覚えていない、村上と自分の夢。

何故、自分の顔がこんなにも赤いのか。
何故、夢の村上も顔が赤かったのか。


…だめだ、ここは寝直そう。



きっと、果てしなく疲れていたのかもしれない。

心身共に、恋愛に。
でないと………








くけさんより素敵な一村を頂いてしまいました!
このサイトにある意識って漫画なんですがそれを元に小説を書いてくださいました!!
あの短い漫画からこんな素敵な一村にしていただいたなんて嬉しいです////
村上がどんどん焦って赤面していくところがまた可愛くて/////
それから店長がおきてからの動揺っぷりもたまらなくて!!
くけさん、素敵な小説ありがとう御座いました!!


Back






「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -