ハニー&プリンス


 名前の最近の日課、それは恋人のランガの部屋で彼を隅々まで鑑賞することだった。スノーブルーの柔らかな寒色系の髪に、氷の裂け目を映したような透明感のあるアイスグリーンの瞳。北米系の血が入った、ハーフ特有のきれいな顔立ち。痩身なようでいて、15年間にも渡るスノーボード生活で鍛えられた精悍な肉体を服の下に秘めている。

「ランガって、本当にカッコイイね。なんか気品があって王子様みたい。」

 名前はランガの容姿について、いつも王子様のようだと賞賛していた。これが物語なら姫君の愛の相手として、充分に主役だと彼女は心を躍らせる。カナダでも、その端正なルックスゆえに女の子たちに可愛らしく囲まれていたに違いないと、名前はひとりで確信に近い夢想をしていた。肝心のランガは容姿を褒められ慣れているのか、否定せずに礼を告げた。

「ありがとう。じゃあ、名前がお姫様ってこと?」
「まさか。そんな、かわいい感じじゃないよ。」

 するとランガは隣に座った名前へと、無造作に顔を近づけた。そして普段の彼から想像もつかない、蕩けるような媚態を見せる。

「名前はかわいい。一緒に滑ってる時とか、ご飯食べてる時に幸せそうな顔をするから、好き。」
「ほんと?」
「うん。本当にそう思ってる。」
 
 ランガの好意の示しかたはカナダ育ちということもあり、非常にストレートだ。世辞や取り繕いがなく、ただありのままに愛しさを伝える。

「ありがと。なんだか、面と向かって言われると照れるね、」

 頬を開花したての桜色に染め、慣れない賛辞に名前は唇を緩ませた。
 それを見たランガは伺いもせず、衝動に駆られるまま名前の唇にキスを落とした。愛おしそうに手を絡め、氷菓子を口をする時のように美味しそうに啄み、舐めたりしていく。

「ん、…っ、まって、ランガ……っ、」
「やだ。」

 恥ずかしそうに逃げようとする名前は、今のランガにとって可愛らしい獲物に他ならなかった。キスは甘く続けながら、ベッドに優しく押しつけた。身体が触れ合い、名前は息を呑んだ。ランガの体は細身なようでいて、男らしい重量と質感がある。繋いだ五指に逃さないとばかりに力を込められ、名前は性差をたっぷり感じさせられてしまう。

「ごめん、名前。俺はいつも名前とこうしたい、って思ってる。」
「え、」
「名前にもっと触りたいし、服の下も見たいって思う。俺は名前がいつも褒めてくれるような、理想の王子様じゃない。」

 童話に出てくるような理想の男ではないと、ランガは否定した。生々しい恋心と欲を滾らせ、いつも燻らせているのだと申告する。すると名前は空いた片手でランガの頬へと触れた。

「それを聞いて、安心したよ。」
「え?」
「ちゃんと男の子でよかった、ってこと。そういうことに全然興味がないかと思ってたから。」
「……そんなわけないだろ。」

 ランガは心外だと不満をあらわにする。そのきれいな顔立ちは眉をひそめても、美しさが崩れることはなかった。名前がきれいだと鑑賞しながら頬を撫でると、嬉しそうにランガは唇を緩ませた。

「母さんは今夜、家にいないから。」
「そうなの?」
「友達とお泊まり会って言ってた。」
「じゃあ、今日は二人っきり?」
「そうなる。」

 蜜月にはうってつけの状況に、据え膳には贅沢なプーティン(ポテト)まで完備されている。これは男として食べない方が失礼だと、ランガの表情は雄弁に語っていた。

「俺は今夜、名前と一緒にいたい。……名前はいてくれる?」

 愛しい恋人に対して片手に加減した力を込め、ランガは甘やかに懇望する。名前の柔らかな肌に触れ、溢れる愛情のままに交じり、一緒に同じ朝を迎えるという未来図をすっかり期待してしまっていた。

「うん。……私もランガと一緒にいたい、」

 名前から切望するような許諾がなされ、ランガは溢れる感情のままに唇を重ねた。まるで姫君を扱うように大切に優しくしようと、決意しながら。



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