歓喜の心臓にとどめを


 愛というテーマは、神道愛之介の人生において重要な要素を持っている。愛し、愛される人物となるように愛之介と両親に名づけられた彼は、神道家の名に恥じぬ輝かしい実績を積み、慈愛あふれる人格者であることを常に期待され、望まれていた。
 どんな日向にも影はあるように、長年抑圧されてきた愛之介の人格や情動は、歪んだかたちで吐出された。自らを愛抱夢(アダム)と自称し、スケートボーディングを愛の儀式と称し、気に入った有望なスケーターたちを愛してきた。

「さあ、始めようか。」

 愛抱夢として活動する彼は、闘牛士(マタドール)を模した華美な衣装をまとう。派手な装飾が施されたケープを翻し、高度なトリックと接触並走で対戦相手を恐怖に陥れ、観客を魅了する。
 マタドールに狙いを定められた闘牛は死を免れないように、愛抱夢に狙われたスケーターは大怪我を負い、大半が引退を余儀なくされた。しかし彼の目的はスケーターを潰すことではない。自らの滑りを、愛を受け入れてくれるイヴのような存在を探している。"S"という彼が作り上げた楽園で。

「ああ、……血湧き肉躍るような素晴らしい夜だった。そう思わないか、名前?」

 愛抱夢としての衣装をまとったまま、彼は名前に同意を求めた。獲物を狩った後はひどく気が昂っており、その表情は獰悪な恍惚に満ちている。まるでバルブが壊れて水道が全開になった蛇口のように、狂気を吐出させている。

「……楽しそうだね。」
「楽しいさ。この昂揚感は日常や仕事では、決して味わえない。ここでは何もかも自由だ。喫煙も、誰かを愛することも。」

 名前は愛抱夢に呼ばれた理由を理解していた。たとえるなら、水を大量に吐出する蛇口を絞める役割のためだ。興奮しきった熱い肉の火照りを鎮め、愛抱夢から神道愛之介に戻るための儀式。彼は名前を求め、熱っぽく囁いた。

「今夜はどうやって君を抱こうか。愛情を込めてゆっくり可愛がられるか、それとも少々手荒に犯される方が好みかな?」

 名前の腰を抱き、不埒にすぎる選択肢を提示する。ふたりの間には淫靡な雰囲気が漂い、待ちきれないように唇が先に交わった。

「ん、どっちでもいいよ……早く、」

 とどめを刺して、と名前は言いかけた。性欲解消の名目であるはずなのに念入りに優しく愛撫され、多忙である身なのに時間をかけて交わることに没頭する。決して生涯や永遠を誓ってくれないのに、ひっきりなしに愛の言葉を囁く。すっかり懐柔された名前の身体は、キスひとつで蕩けてしまう。

「可愛らしい催促だね。立場も矜持も忘れて、夜通し愛したくなるよ。」

 歓喜する心臓にとどめの一突きを望んでいるのは、どうやら名前だけではないらしい。互いに獣欲と呼ぶには情緒的で、儀式というには情熱に満ちた交わりを欲していた。まるで目に見えない愛を確かめたいかのように。



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