サンルームで汚して


※直接的な表現はありませんが、性行為を匂わせる表現を多く含みます。閲覧注意です。
 


 その行為をたとえるなら、フルコースの最後に提供されるデセール(デザート)だった。肉体の火照りを発散し、愛抱夢から神道愛之介へ戻るための儀式。
 "S"でレースをすることは、彼にとってメインディッシュを味わうことにひとしい。刺激的な決闘(ビーフ)を終えて最高潮にまで昂揚した精神と肉体は、原始的な肉欲というかたちで発散することを求めていた。

「名前、おいで。」

 神道家の邸宅、その一室にサンルームと呼ばれる部屋がある。愛之介は"S"での衣装をまとったまま、この場所に婚約者を呼びつけた。顔の上身を隠したベネチアンマスクに、スペインでの花形闘牛士(マタドール)を模した衣装。普段の格調高いロイヤルブルーのスーツ姿からは、遥かにかけ離れている。
 名前は愛之介に手を引かれて、サンルームのソファーに誘われる。至近で昂揚しきった吐息に炙られ、名前は甘く緊張しながらも応えていく。唇がゆっくりと交わり、互いに愛しい体温に蕩けていった。

「どうして……いつも、サンルームでこんなことを?」

 名前の口から、疑問が滑り落ちる。こんな痴態を同居している彼の叔母たちに見られたら、今まで築き上げてきた地位も立場もすべて瓦解するからだ。自室よりも見つかるリスクが遥かに高くなる、このサンルームを選ぶ理由が名前には理解ができなかった。
 愛之介はベネチアンマスクを外して、答えた。どこか皮肉な口調で。

「僕を見守り、愛してくださる叔母様たち。彼女たちが普段憩う場で、名前を愛したいからだよ。」

 強烈な反抗の意思と、激情を込めた笑みだった。彼の叔母たちは『婚前の性交渉を認めない』という時代錯誤な誓約を、愛之介と名前に強いていた。
 それを堂々と破り、サンルームで名前と交わるのは彼なりの反抗の意思に他ならない。陽の当たる空間で、美しい紅茶と上質な菓子を楽しむ叔母たちへの痛烈な皮肉を体現しようとしていた。

「さあ、始めようか。見つかるかもしれない、という恐怖は最高のスパイスだ。そうだろう?」

 囁く声には、抑えきれない興奮と愉悦がたっぷり込められている。彼はそうして不埒に名前の腰を撫で、愛欲のままに交わっていった。肉体の火照りを発散し、愛抱夢から神道愛之介へ戻るために。



 幾つもの倒錯的な夜を過ごした名前。次第に彼女はサンルームにいると、否応なしに愛之介との情事を思い出すようになってしまった。
 舌を交わらせながら、愛之介に身体の奥深くまで注いでほしいと懇望したこと。大理石のテーブルの上で熱い素肌を合わせるうちに、交わった体液がコンデンスミルクのように垂れてしまったこと。名前は思い出す度にパブロフの犬のように、肉体が火照ってしまう。

「名前さん、顔が赤いわね。風邪でもお召しになったのかしら。」
「いえ……、大丈夫です。ご心配には及びません。」

 日中をサンルームで過ごす愛之介の叔母たち。年配の淑女たちは、愛之介と名前がこの部屋で淫らにまぐわっていることを知らない。優美な大理石のテーブルや、上品な北欧製のソファーで愛欲に耽っていることを知らないまま、上質な紅茶と菓子を楽しんでいる。その倒錯的な状況も、名前を欲情の淵へと駆り立てた。

「まあ、いけない。ミルクをこぼしてしまったわ。」

 叔母の声に動揺し、名前はそちらを見てしまう。紅茶用のミルクカップをこぼしてしまったらしい。大理石のテーブルには粗雑な水溜りとなって、乳白色の液体が広がっている。まるで過日の情事の後に、そっくりだった。

「……っ、」

 名前の吐息に、無意識のうちに熱が込もっていく。そして肉体の疼きを抑えようと、掌を強く握った瞬間、愛しい男の柔らかな声が聞こえてきた。

「愛之介です。ただいま戻りました。」

 礼儀正しく議員然とした雰囲気。そして年長を敬う好青年の笑み。愛想のいい虚飾の仮面を被り、彼は叔母たちに仕事の報告をしに来たのだった。
 まるで国会の答弁のように淀みなく応対すると、愛之介は名前を見つめて提案した。

「名前さんは体調が優れないようですね。ご無理をせず、休まれた方がいい。僕が部屋までお連れしましょう。」
「……っ、はい、」
「あらあら、愛之介さんはお優しいこと。あなたのお父さまも、それはもう紳士的だったから血は争えないのかしらねぇ。」

 叔母たちは、愛之介の善意を賞賛していた。女性に気遣いができる紳士的なふるまいは、神道家にふさわしいと微笑んでいる。愛之介は会釈をすると名前の手を恭しく引いて、サンルームを後にした。



「駄目じゃないか。叔母様たちの前で、あんなに発情しきった顔をするなんて。」

 愉悦混じりの甘やかな糾弾。それを浴びせて、愛之介は名前の唇を攫った。愛情と嗜虐に満ちたキスに責め立てられ、名前は蕩けながらも謝罪を口にしていく。

「愛之介さん、ごめんなさい。どうしても思い出してしまって……っ、なんでもするので、許してください……、」
「謝ることじゃない。サンルームに行く度にそうなってしまうなんて、とても淫らで愛しいよ。ああ、そうだ。こういうのはどうかな。」

 愛之介は人差し指の先端で名前の股上から臍にかけて、ゆっくりと好色になぞった。

「……ここに俺の精液を飲んだまま、叔母様たちのいるサンルームへ戻る。とても刺激的だろう?」

 淫らにすぎる提案だった。愛之介は心を許した愛しい相手には本来の一人称となる傾向がある。彼なりの愛情表現はやや変態的で、羞恥を強要する嗜虐に満ちていた。

「そ、んなこと……っ、」
「まさか出来ない、なんて言わないでくれよ?なんでもするから許してほしい、そう懇願したこの口でね。」

 誠意を期待する爽やかな弁舌は、名前をひたすら甘く追いつめていく。熱い子種を身体の奥深くにたっぷりと注がれ、愛される。そして見せつけるように叔母たちのいるサンルームへと向かう未来しか彼女には最早残されていなかった。



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