姫川が出て来ない姫神前提な夏→神




一度だけ、神崎君に尋ねたことがある。
「神崎君が他人といる理由はなあに?」
神崎君は「は?」と、何を聞くんだと言わんばかりに顔をしかめた。
「他人といる理由だ?知るか。」
一言で返された。うーん、これは納得は出来ない。
「じゃあ城ちゃんと一緒にいる理由は?」尋ねると更に眉間に皺が寄る。
「んなのあいつが勝手についてくるだけだ」
そうきたか。
「んー、じゃあおれは…?」
「あ?お前?」
少し、ほんの少し期待した。おれが神崎君についているのは神崎君が本当に、本当に面白いと思うからだ。考えていることも、起こす行動も、滅茶苦茶なくせに何故か気持ちいいと思う。
先日の東条一派との抗争でもそんな一面をみた。みてしまった。そんな神崎君の隣にいたのは、残念ながらおれじゃなかったけれど。
「お前は…うん…?あー…わかんね」悩んだ割にあっさりと出された答えはおれを納得させるに充分であった。やっぱりか。
あーあ、こんな気持ち叶わないならいらないのに。輪郭をしっかり保ちながらもぐちゃぐちゃなまま、おれの中に居座り続けているこの感情は言った所で結果は知れてる訳で、だけどじゃあこの気持ちはどうしたら消えてくれるんだろう、ねぇ、神崎君
「じゃあ姫ちゃんは、どうなの?」
神崎君の目が少し丸くなる。あ、動揺した。
「くそリーゼントなんか理由とか無ぇよなんとなくだ!」
ああほら敵わない。
「わお、姫ちゃんといるのは自然なことなんだね」
「は!?なんとなくだって言ってんだろうが!」
だってなんとなく、って嫌いならなんとなく一緒になんかいないでしょうよ
言おうと思ってやめた。目の前の神崎君が必死でかわいいから。
「あはは、神崎君て姫ちゃん大好きだねぇ」
「夏目てめぇ馬鹿か!!なんでそうなるんだよ意味わかんねぇ!!」
「あははは」
「笑ってんな!!」
顔を真っ赤にさせて乗り出し今にも机をひっくり返しそうな神崎君に不意打ちで顔を近付ける。
鼻と鼻がつきそうな程、色素の薄い神崎君の茶色い瞳が自分でいっぱいになるくらい。
「っ、なつ」
「神崎君にはさ、いつも楽しいとか嬉しいとかそういうので一杯でいてほしいんだよね」
多分おれじゃこれ以上にはならなくて。多分姫ちゃんならもっとずっといっぱい神崎君をあったかく出来るんだ。
「…夏目、風邪か…?」
「うん、びょーき。」
「…もう心配しねぇ」
「あはは、神崎君やーさしーね」
「お前なぁ…」
ほんとにさ、ほんとに。
「さて、ヨーグルッチ買いにいきますか。…一緒にどう?」
「…5つ。奢れよ、ばーか」
神崎君はやさしいよね。きっと気付いてるのに。
こんな気持ち叶わないならいらないのに。消えない、消せない、輪郭を失うことすら出来ないこんな感情なんて。


滲んでしまえ

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