・やまはないおちもない意味もない
・臨(→)静
・唐突に始まって唐突に終わる




「俺、消えちゃった」「何にも触れないし」「皆、俺が見えてないみたい」「誰も俺を愛してくれない」「俺はこんなに愛してるのに」「こんな声さえ誰にも聞こえてないなんて、笑っちゃうよね」
目の前に立つバーテン服の男に話かけるように言うが反応は返らない。当然だ。この雑踏の中、俺の声も姿も誰にも認識されていない。いやされなくなってしまった。己の影すら見当たらないなんてなんの冗談だ。何が起きたかなんて知らない。気付いたらこうなっていた。困った。これでは誰も愛せない。俺は人が、好きなのに。
もしかしたらと思った。テレビの中で破壊の限りを尽くす怪獣も驚くだろう彼なら、もしかしたらと思った。こんな俺に気付いてくれるんじゃないかと。
人間であって人間でない彼ならその非人間的な力の一部で今の俺に気付いてくれるんじゃないかと期待、した。しかし甘かったようだ。何時もなら魔神の如くキレて公共物が飛んでくるのにそれがない。その前に、俺という存在に気付いていない。あの、平和島静雄が。
なんでだ。知るか。むしろ俺が知りたいんだ。シズちゃんは俺に気付いてない。彼を殺すなら今だ、そうだ。いやそうじゃない。違う、俺は人間を愛してる。愛してる。だから、だから、
「ねぇ、愛してよ」「なんで俺は独りなの」「愛してるんだ、だからみんな俺を愛してよ」「シズちゃんだけでもいいよ、仕方無い、から」
うそ。仕方無いなんてうそ。本当は違う。違う。違う。
「‥君だけに、俺が見えたらそれでいいのにさ、」
ぽとり、と出た言葉。呟いた瞬間、合う視線。誰と、彼と。俺は思わず息を詰める。彼は声を発せずしかし確実に言葉を伝えるように口をぱくぱくさせた。
『愛されたいだけのくせに』『素直に言えよ初めから、』『ノミ蟲』
あれ、何時もの彼の言葉だ。それが何故か身体にじわりと染みた、気がした。
「シズちゃん、おれが、見えるの」
柄にもなく声が震えた。心臓が痛い。彼は小さく頷いた。なんだよ、なんか、泣きそう。彼には、彼だけには俺が見えている。この声が聞こえている。それが単純に嬉しいと思えた。
いつの間にか足下に戻っていた影を踏まれた。自分からも近づき彼に手を伸ばす。触れることができたそれは温かい。泣きそうだ。ああ柄じゃない。
柄じゃない、のに。
「シズちゃん、好きだよ」
震える声はそれだけを零して嗚咽にかわった。


願ったのは、


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