夜を生きる

白かった。白くて明るくて眩しくて、ざわざわと騒がしい誰かの声も、まるで拷問だった。何故暗くて暖かくて狭くてふわふわとしたあの場所にいつまでも浮遊させておかせてくれないのか分からなかった。不快だ。不快でしょうがない。気づいたら泣いていた。気が狂ったように泣きわめいて、自分を苛む誰かの耳をつんざきたかった。誰かをひどく憎んだ。
「大丈夫だから」
突然上半身を持ち上げられて、ふと我に返る。頬にぴり、と痛みが走った。涙の跡がついている。ああ、またか。荒い呼吸を抑えるように深く息を吸い込んだ。ああ、煙草の匂いがする。
「生まれたくなかったんだよ、土方くん」
ベッド横に腰掛け背中に手を入れてくれていた土方を見ないまま息を吐き出す。小さく背中の手が動いた。
「俺も生まれてなかったらどれだけ楽だったかって思うよ、たまに」
土方も視線を合わさぬまま口を開いた。
「弱いから、こうやって支え合ってかないと生きられないんだ」
弱いから。と彼はもう一度呟いた。もう乾いてしまった頬の涙の跡を撫でる。
「どうせ生まれるなら強くなりたかったね」
彼の頭に手を伸ばしてゆっくりと髪を梳く。黒い髪が光を浴びて茶色がかって見えた。土方は少し首を傾げてこちらを見た。
「万事屋、寝ようか」
土方の言葉に頷いてもう一度ベッドに横になる。彼も隣のベッドで布団に潜り込む。手を繋ぐことすらできずに、別々の布団で眠るのだ。弱いから。弱いから、手を出す勇気すらないのだ。
「おやすみ」
「また明日」


(101202)





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