愛で塗り潰せ

彼女の瞳はいつ見ても水が満ち足りていて赤く染まって見えた。
「ねえ」
純朴な顔に似合わない真っ赤な色の爪をひらひらと振って彼女は言うのだ。
「世界を塗り潰してしまいたいわ。この爪みたいに一面の赤に」
僕は知っている。彼女が塗り潰してしまいたいのは本当は世界なんかじゃなくて彼女自身だと。彼女は知っているのだ。くだらない世界を享受して生きる人の群れよりも、世界のくだらなさに気づいてしまった、世界を切り捨ててしまった彼女自身が1番くだらないことを知っている。
「君は変わり者だよ」
彼女は少し並びの悪い歯を見せて言う。
「わたしと一緒に居てもろくなことはないのに」
僕は曖昧に首を傾けた。ろくなことがなくても僕は僕より変わり者の彼女が気に入っているのだ。
「わたしは君を好きにならないけれど、君を気に入っているよ」
それは光栄だと僕は思った。しかしこの嬉しさを言葉で表す術を僕は知らないから彼女に、急いで書いた画用紙を見せた。彼女は眉を寄せてじっと画用紙に見入っていた。それから彼女はそのページを破り取ると部屋の壁に貼付けた。おとなしく見守っていると彼女は悪戯を思い付いた子供のような顔を向けた。
「そうだね、君とわたしで一緒にこの星を愛で塗り潰してやろう」


(101202)





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