ステンレス

道端で烏が死んでいた。最初、風で飛ばされたごみ袋かと思った。黒い塊になってしまったそれを暫く眺める。目が、綺麗だった。もう何も映さないが目が綺麗だった。さっき飛び立った烏の瞳は、濁っていた。死んだら、綺麗になるものなのかもしれない。汚い現実や億劫な周りとの関係を見なくて済むようになるから、濁りが消えるのかもしれない。吸いかけの煙草を烏の骸の傍らに落とした。線香代わりにでもなるように思った。自分の目もきっと濁っているのだろう。自らの瞳など見えるはずもないのに生気を失った己の目が見えた気がして笑った。屯所に帰る途中で万事屋の前を通るとそこの主と出くわした。
「あら副長さん、今日も瞳孔開いちゃって、お疲れさんだねえ」
そういう万事屋の瞳も色さえ違うがどろりと黒く濁っていて、可笑しかった。万事屋が訝し気にこちらを見る。
「お前も俺も、生きてんだな」
笑いが堪えられなくてくつくつと喉の奥で笑った。万事屋はゆっくり瞬きをすると、困ったような愛想笑いをした。ほら、濁っている。


(110208)





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