プリーズゴーホーム

静かだった水面に何かが落ちて顔がぼやけた。泣いているみたいに歪んだ。頬に手をやると濡れていた。ああ、泣いているみたいだ。涙で体中が濡れていく。びしょびしょだ。誰か、何が悲しいんだい?と尋ねてくれないだろうか。そうしたら、何が悲しいか分からない悲しさが少しは和らぐかもしれない。濡れた体が何故か温かい。気持ちが良かった。滲んだ視界に入る向こう岸の動かない車の群れが美しかった。時が止まったのかもしれない。そうだったら素晴らしい。
「なにしてんだ」
後ろから声が聞こえると同時に、涙が止まった。
「雨ん中なに馬鹿やってんだ」
見上げると不機嫌そうに傘を差しかけてくる土方の顔があった。煙草が雨に濡れて火が消えかかっていた。
「なあ、俺、泣いてるんだ」
足元のひしゃげた草を見つめながら聞いてみた。
「泣いてないじゃねえか。お前の涙じゃなくて雨だろうが」
傘が頭上で揺らめいて、その度にふたりの肩が濡れた。
「泣きたいなあ」
「泣いてもいいけど、その冷え切った体、風呂入って暖めて乾かしてからな」
立て、と肩にかかる手に促されて立ち上がった。
「泣いちゃおうかな」
「勝手にしてろ」
傘を差し掛けながら隣を行く彼を見つめると何だか泣きたかった理由が分かった気がした。


(110112)





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