スーサイド

寒い冬の朝が好きだ。冷え切った空気で張り詰めた空を美しいと思う。だから、今日みたいな日がいい。この空ならなにもかも吸い込んでくれそうだ。今まで過ごした短い人生も、記憶も、存在も。そうしたら何も残さずに去れるだろう。何を待っているのかも分からぬまま、今日まで手探りでその何かを待ち続けるように生きてきた。だが手探りで日々を進むのには少々疲れてきた。だから、もういいじゃないか、と思う。何のために必死にこの世界にしがみついているのか分からなくなったのなら手を離してしまえばいいではないか。ひっそりと夜に闇に紛れて別れを告げなくとも、からりと晴れた天気のいい朝に花や太陽や空に呑まれてしまえばいい。その方がずっと素敵だ。悲惨な印象も受けないし、豪快で結構ではないか。どうせなら、やっぱり今日みたいな素晴らしい日がいい。引き出しの中にある小さな瓶を見た。結構だよなあ。でも、もっと素晴らしい綺麗な朝が明日にはやって来るかもしれない。錠剤の入った小瓶の蓋をそっと親指で撫でて、引き出しを静かに閉めた。


(110107)





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