ラストヘブン

世界の果てがやって来るよ、と彼は言った。わたしは、そんなものないわ、と答えた。彼はぼんやり笑って空を眺めた。静かだった。いつも彼が点けているはずのテレビは画面を暗くしたままで、一言も言葉を発しなかった。締め切った窓から見える街の風景は降り積もる雪に全ての命を吸い込まれたかのように呼吸をしていなかった。部屋に響くのはコーヒーポットの低い小さな音だけで、それ以外は何も無かった。これが果て?と、黙って手元の空になったカップを見つめる彼に尋ねた。違う違う、果てっていうのはもっと何もなくて、静かで、泣きたくなるような場所なんだよ。と彼は答えた。でもわたし、今泣きたい気分だわ。彼の広い背中に身体を持たれかけさせた。じゃあ、ここが果てかもしれない。彼はそっと言った。背中から離れると彼はコーヒーを入れに台所に行った。ひとりリビングに立っていると、世界から取り残された気がした。静かで、泣きたくなった。小さく肩を震わせると、彼が台所から何か言った。慌てて彼の隣に行くと、彼は窓を指差して微笑んでいた。
なあに?
あれが世界の果てだよ。
窓の外には雪に埋もれた街が静かに佇んでいて、遥か遠くの地平線に太陽が顔を出しかけていた。雪に反射して世界が燃えているようだった。綺麗ね。ため息をひとつ吐くと彼も息を吐き出した。綺麗だろう。照らされた彼の横顔が美しい。
一度くらいは世界の果てに行ってみたいと思うよ。
世界中が静まりかえっていた。世界中が光に覆われて何も無くなったようだった。頬に一筋涙が垂れた。
わたしもあなたと果てに行ってみたいわ。
彼の瞳にも水がはっていた。


(101217)





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