「…毎日嫌なことばっかりだけどさ。私、生きてて良かったよ」 見上げる形で向けられた笑顔は、ヒーローとして住人に見せているものとは似ても似つかない。柔らかくて暖かくて、きっと俺だけしか知らない表情なんだろう。今俺の前に居るのは、ヒーローのスプレンディドではなく、恋人のスプレンディドだ。誰も知らない、完全無欠な彼の泣き顔だ。 ふとその柔そうな肌に触れてみたくなって、頬に指を滑らせてみる。彼は驚いて身体を離そうとしたが、背中に手を回しそれをやんわりと止めた。 「キスして良い?」 頭に浮かんだ言葉をそのまま口にすると、案の定彼はぐわっと顔を赤くする。何か言いたげに視線を泳がせた。 「…いちいち訊かないでほしいんだけど、」 それを了承の合図ととり、顎を持ち上げ唇を押し当てた。舌で歯を丁寧になぞると、その度に彼の身体が小さく跳ねる。それが可愛くて、不器用に動くスプレンディドの舌に自分のそれを絡めた。 「ふ、っ」 相変わらず息継ぎが下手な彼は、とんとんと俺の胸を叩く。それでも止めずにいると、今度は肩やら腹やらを滅茶苦茶に叩いて来たので、これでは敵わないと渋々解放した。つうと伝った唾液を指で拭ってやると、顔を真っ赤にしてこちらを睨む彼。 「いきなり舌は入れないでくれってあれほど…!」 「ん?嫌?」 「違うよ、びっくりするんだ」 今日は何だか、少し意地悪をしてみたい気分なんだ。普段とは違う表情を、もっと見てみたい。ねだるようにその唇に指を押し付けた。 「…もっとしてもいい?」 |