今日もまた人を殺してしまった、あんなに助けを求めて叫んでいた小さな子供を。
心の底では分かっているんだ、この街に私なんか必要無い。守るべき正義なんて本当は何処にも無いのだと。ヒーローになんて、なれやしなかった。
だからほんの軽い愚痴のつもりで、言ってみたんだ。「もう死んでしまいたい」と。正直それでも良いかなと思えたし、彼もまた苦笑いで答えてくれると思っていた。
けれどフリッピー君は、ぐっと唇を噛みしめて、「馬鹿!」と声をあらげた。
私は目を見開く。穏やかな彼がこんな声を出して怒鳴るなんて、予想だにしていなかったからだ。
「…なんで、君が怒るのさ」
彼は今にも泣きそうな顔で、握り締めた拳をわなわな震わせる。私は何か、怒らせるような事を言ったんだろうか。フリッピー君は何か言いたげに口を開閉していたが、やがて私に手を伸ばし頬を覆う。熱い掌だった。
「…っスプレンディドが死んだら、俺はどうすれば良いんだよ」
「…フリッピー、くん?」
「ヒーローのくせに、そんな事も解らない、のか」
彼の声は震えていた。深緑の目から、ぼろぼろと涙がこぼれる。本当に辛そうで悲しそうな表情に、胸がつきんと痛んだ。
「大切、なんだよ、スプレンディドの事が」
頬を痛いくらいに掴まれて、顔が近付く。滅多に見ない彼の泣き顔は、あまりに綺麗だった。
「俺が苦しんでた時も、全てを投げ出した時だって、いつも傍に居てくれてありがとう、ずっと笑っててくれてありがとう」
彼は泣きながら、下手くそに笑ってみせた。
「…生まれて来てくれてありがとう、スプレンディド」
そう言って私を抱き締めたフリッピー君の手は、熱かった。熱くて強くて、優しかった。それにつられるように、私も目から、ぼろぼろと涙をこぼす。息が苦しくなって、前が見えなくなって、彼の背中にしがみついた。何を言えば良いのか解らない、どんな顔をすれば良いのかも解らない。けれど、今ここに存在する事を許して貰えたような気がして、どっと涙があふれ止まらなくなる。
だって、生まれて来てくれてありがとうなんて言葉、言われた事は無い。
小さな子供や住人を助けて礼を言われる事はあっても、こんな風に、泣きながら叱ってくれる人は居なかった。
不謹慎だけれど、本当に嬉しかったんだ。ヒーローとしてでは無く、スプレンディドと言う人間として扱ってくれるフリッピー君が、大好きだったんだ。
「だから、もう死にたいなんて言うな」
「っ、うん、」




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