図書委員長:薙沢律の場合ー7



お前が俺を好き?
意味がわかんねえ。


「だよな。押切ならそう言うと思った」


微かに笑って、手が首の後ろに回る。ぐいっと引き寄せられ額がコツンとぶつかった。


「これがαとしての独占欲なのか俺だって判断つかないけど、それでも俺は押切を他の奴にくれてやりたくない」

「っ、…」

「俺は、お前が好きだよ」


唇がくっつく間近で動いた口。
その後にふにゅっと優しく唇がくっつく。


「もし他の奴とあんな状況になっても、絶対にΩだからってキスもしないし、抱くこともしない」


衝撃的な発言に対し声を失った弓弦は、今の状況に身を固まらせるだけで他に何かできる術を持ち合わせていなかった。頭が真っ白で、どう受け止めたらいいのか分からない。思考は停止し、ただ耳を傾けることしか出来なかった。
元に戻れなんて、感情に任せて言わなきゃよかったな、と小さく細川が呟いたのが硬直した弓弦の頭に流れ込んできたが処理できずに最早音として捉えたに過ぎなかった。









柔らかな感触が残っている唇。
人差し指の甲を押し当てて、きゅっと結ぶ。
今いるのは図書室。
誰もいない静かな空間だから、一人で考えを整理したりするにはうってつけの場所だと最近のお気に入りだ。


「はぁ…〜〜〜〜」


長いため息が勝手に口から漏れ出た。
ガクン、と首が下がり項垂れる。
αに心を開かない。
言われて確かにそうだと否定できない自分がいた。
だって、じゃあ、どうすればいい。
ぐるぐる思考は忙しなく回るのに一向に回答は浮かび上がってこない。
もう一度深いため息を吐きかけたところで、静かな空間にガタンッという上から本が落ちたような音が耳に届いた。


「?」


気になって、弓弦は立ち上がった。
音のした方に足を伸ばして、顔を覗かせる。


「あれ、押切?」

「薙沢、…」


不自然に腰が折れ曲がった状態の律の手の先を見ると一冊の本。


「ああ、落としちゃって」


脚立がすぐそばに立ててあって、上の方の棚がぽっかりと一冊分だけ空いている。


「整理でもしてたのか?」

「ぁー…。いや、上に座ったまま読んでてしまうときにちょっとね」


気まずそうに笑って、明確な言葉を避けたようだったがそれだけでも十分に話の内容は把握することが可能だった。
流石は、本の虫。
活字馬鹿とも言うと、えーっと誰だっけ。
班目が言っていたような気がする。
って、何で今度はあいつのことを思い出さなきゃいけねえんだ。くそ。
盛大に顔を顰め、律が目の前にいるのも構わず小さく舌を打つ。


「どうかした?」


手際よく本を所定の位置に戻した律が脚立に跨った状態で弓弦を見下ろす。
何もしなくても身長がある律だからか、脚立に乗ると尚のこと背が高くなる。

(ああ、くそ)


「なんでもねえ」


胸中で言葉を吐き捨て、外に出す言葉は一応取り繕った。
脚立を下りた律がそれを折り畳みながら、弓弦に顔を向ける。


「押切ってどんな本が好き?」

「え?…、あー…」


予想もしていなかった質問に一瞬目が宙を泳ぐ。


「まあ、何でも読むけど。好きなのは冒険もののファンタジー」

「面白いよね。俺も好き」


にこりと癖毛を残したゆるいパーマがかった髪を揺らして、律が笑った。



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