図書委員長:薙沢律の場合ー6




『そうか。近くにいるから迎えに行く』

「え、? あ、ぁ。うん、分かった。待ってる」

『じゃあな』


ブツッ、とそこで音が途切れる。
結局なんだったんだ、と頭を捻るが考えても分かりそうにない。


「王子様のお迎え?」


通話を終えてすぐ、立花から声をかけられる。つうか距離がちけえ。


「は? 王子様?」


携帯を耳から外し宙に浮かせたまま弓弦は立花の言葉を繰り返した。


「あれ。やっぱり満田がここ最近であからさまになったの気が付いてないの?」


彼が班目と同じ指摘をしてきたことに戸惑う。


「なんの話…」

「押切」


班目とも立花とも違う第三者に名前を呼ばれ、弓弦は呼ばれた方角に顔を向けた。


「迎えに来た。行くぞ」


え、はや。
思っていたよりも早い登場に弓弦は少々目を丸くさせた。


「近くにいるって言っただろ」


弓弦の表情で何を言わんとしているのか分かったらしく、細川は呆れた顔をする。


「じゃあ、押切は回収してくから」


細川の言葉で一瞬、冷え切った空気が流れたような気がしたがすぐに綺麗さっぱり消える。圧し掛かっていた肩の重みが消えてたことで、立花の気配も一緒に離れる。細川に促されるまま席を立って、もう一度彼らを振り返る。
機嫌の悪そうな班目と目が合い身体がかちっと固まった。


「さっきの、忘れんなよ。まだ許してねえから」

「っ…」


自身の身体を貫くほどの眼力は己の罪を真正面から突き付けてくる。弓弦は返答を返さずに踵を返した。
ああ、くそ、と内心で言葉を吐き捨てる。ズキズキと痛む心臓に、一丁前に罪悪感を覚えてんじゃねえと自身を罵っておいた。










細川と一緒に肩を並べながら歩く。やはり身長がまったく異なるせいか、数センチも高いところに肩があって、体格の差をまざまざと感じる。


「なあ」


弓弦は、細川に声を掛けた。


「なんだ?」


顔がこちらを向いて、弓弦を見る。
そういえば、直接言葉を交わすのは久しぶりな気がした。大体一緒に活動しているのに、おかしな話だ。


「あれ、何の用だったんだ? つか、なんか二人で話すの久しぶりだな。何でだろ」


素直に思ったことを口にする。首を傾げて顎に手をやった。


「本気で言ってるのか、それ」


少し上から呆れた声が降ってくる。


「本気って、どういう…」


そういえばさっきも似たようなこと。


「満田がそうさせてるって分かるだろ」


立ち止まって彼を見上げると相手も同じタイミングで足を止め、こちらを見ていた。その瞳は完全に俺に呆れていると分かる色を持っている。


「…、っは? 何言ってんだよ。俺、そんなにあいつと四六時中いるわけじゃねえぞ」

「そうじゃなくて、…、あー。いい。たぶん言っても分からない。押切には」


はぁ…とため息まで吐かれる。


「俺に言っても分からないって、お前等そればっかだな」


またα様特有のなんちゃらって奴かと不貞腐れかけたところで「お前が俺らを見ないからだろ」という何とも理不尽な言葉を頂く。
それ、どういう意味だよ。
弓弦は言葉にはしなかったものの、その端正な顔に分かり易く今思ったことを書き出していた。


「確かにあの時、手を出したのは俺だからお前を責める権利はないけどな。俺らの行動を全部性のせいにされるのは、また別の話だから」

「なんの、話だ」

「だって押切。俺らのこと初めから見てないだろ」

「は?」


微かに傷ついたような顔をして笑った細川に、釘づけにされる。


「満田がああなってんのもそのせいだろ」

「だから、」

「お前は、αの人間に絶対心開かないだろ?」

「っ…」


そんなことはない、という否定がどうしてか出てこない。
一方的に細川に好きに言葉を言わせてしまう。


「俺がお前を好きになったって言っても、性のせいにするか?」

「っ、ありえねえだろ」




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