図書委員長:薙沢律の場合ー5




「何の話だよ」


質問の回答は返されず話しが飛んで、さらに弓弦の眉間に皺が刻まれる。


「かぁ〜、まさかの無自覚ですか。アイツ、お仲間の生徒会からもお前を遠ざけてたみてえじゃねえの。愛されてんね〜、流石唯一のお友だち」

「っ、」


目の前の男には不似合いな言葉遣い。煽られていると一見して分かるものだったが、今一番言われたくない言葉を言われて、相手の思惑通りに簡単に動揺させられた。それをわざわざ班目に知らせるかのように、弓弦の頬にカッと赤が差す。
弓弦の動揺を目にした男は、何を思ったのか厭味ったらしかった言葉と表情をスッと一瞬で捨て去った。本来の彼の表情に戻り尚のこと弓弦は心内を揺さぶられてしまう。


「なあ、俺らも昔は友だちだったよな?」


確認のようなそれ。


「っ、むかしの、話だろ」


動揺は未だ続き、紡ぐ言葉は格好悪いものになる。既に視線を合わせることが困難で、あからさまに班目から顔を背けた。


「それはてめえが勝手に自己完結させてるだけの話だろ。俺の中じゃずっと何も変わってねえよ」

「ッ〜〜〜、…、知るかよっ」


相手の顔を見ないまま、拒絶の言葉を吐き捨てる。


「そうやって、あの時もお前は俺から勝手に逃げたんだよな」


少しばかり怒っているような声。雰囲気。瞳を見なくてもなんとなく奴の感情の動きが感じ取れた。弓弦の中でさらに動揺が広がる。逃げた、という言葉は正にその通りで言葉に詰まってそれ以上何かを発すことが出来なくなった。


「なあ、…」

「っ…」


やめろ。それ以上何か言うんじゃねえ。
それすらも言えずにぎりっと奥歯を噛んだ。
手が伸ばされたのが横目で見え分かっているのに避けることも出来ず、視線だけを合わせない様に必死に地面を見続けた。あと数センチ。頬に奴の手が触れそうになったところで、突然後ろから誰かに口元を覆われ抱きすくめられる。


「っ、!?」


予想もしなかった出来事に息を詰めた。


「俺の管轄で彼に不用意に触らないでもらえるかな」


抱きしめられている温かな温度とは裏腹に、冷ややかな声が耳に届く。サッと弓弦の顔色が変わったのは、正面に座る班目からは良く見えた。


「立花、…」


苦々しい表情を浮かべた班目が、嫌々そうに突然登場した男の名前を呼んだ。


「君みたいな野蛮人が触れたら汚れてしまうだろ」


特大の嫌味がすぐ近くで発声される。


「てめえこそ今すぐそいつから離れろよ。何気やすく触れてんだ」

「はっ、気やすくってもしかして押切がお前の所有物とでも言いたいの?」

「あ゛?」


まさに一触即発。
混ぜるな危険。
班目の目の当たりにしない威嚇に立花の腕の中で弓弦は身を強張らせた。


「ああ、ほら。野蛮人のせいで押切が怖がってる。可哀想」

「こいつはそんなタマじゃねえから」


機嫌が急転直下した凶悪な顔と刺々しい堅い口調。


「はは。本当にそう言えるか?」


それを簡単に鼻で笑ってあしらう立花のメンタルが意味不明だ。


「君がよく知っているのは昔の彼であって今の押切ではないだろ」

「何が言いてえ」


さらに深く刻まれた眉間の皺に、自分が向けられているわけではないのにヒクっと喉が引き攣る。


「嫌だねえ。昔の友達って関係に縋って。みっともな」


(っ…、)

今の立花の表情を弓弦は見ることが出来なかったが、最後の嘲笑でなんとなく想像がついてしまう。

(どうすんだ、これ)

急激な状況悪化に戦々恐々としていたとき、プルルルル、と空気を切り裂くように携帯が鳴った。険悪だった空気をさらに凍り付かせる要素に、ビクッと身体が跳ねる。自身のポケットで空気を読まず鳴る携帯にこれほどまでに恨みをもったことは人生で一度もない気がする。


「携帯鳴ってるよ。出ないの?」


すぐ間近にいる立花に指摘されて、弓弦の肩が小さく揺れた。


「あんなタイミングで出れたくらいだからな。気にせず出ろよ」


班目にも鼻で笑われ弓弦は両者に挟まれながら携帯をポケットから取り出した。表示されていたのは、細川暖。珍しい名前に少し驚く。


「、…なんかあったか?」


通話をオンにして、恐る恐る言葉を発した。若干喉が張り付いていて第一声が小さな吃音を生ませた。


『今、どこいる?』

「今はガーデンにいるけど」


唐突な質問に、疑問を抱えながら正直に回答する。



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