題名のない部屋
女の子扱いされたい帝光ガール
「私だって一応女の子なのに……」

短く切り揃えられた髪を弄りながら呟く。前の席の黄瀬がこちらを振り向いた。

「オレは女の子扱いしてるッスよ!」
「黄瀬はいいや。お前見境ないし」
「ひどいッスよ!」

黄瀬はぶーと唇を尖らせる。でっかい男がやっても可愛くないからやめてほしい。周りに黄色い声を上げている女子もいるが、ごめん、黄瀬はノリが合うせいで友達としか思えない。
あー、こういうとこが女っぽくないのだろうか。つっても昔から男子に混じってバレーやってたし、料理も出来ないしイケメンにはこの態度。正直男子よりも女子にモテる。私だって女子なんだけどなぁ。

「それにしてもどうしたんスか?名前らしくなくない?」
「んー、カラオケ誘われてさ。男子に」
「それがなんで?オレとはよく行くじゃん?」
「そうなんだけどさ。ふと、私は男友達だと思われてるんじゃ、って」
「うーん。そうッスね……。オレは違うッスけど…」
「さりげに自分こと言うのうざいし、お前に女の子扱いされても嬉しくないって言ってんじゃんか」
「もう!ひどいッス!!」

しまった。またこういう態度を……。直らないものだ。私が態度を直せば女の子扱いされるかもしれないけど、上手くいく自信はない。
結局振り出し。
まあ、別にいっか。今は好きな人いないし。

もし好きな人がいたらもっとしおらしくできるのかも……。と思ったけど、まず好きな人を作らなきゃだよね……。

正直、私を女の子扱いしてくれる人じゃないと好きになれる気がしない。そしてそんな人はいない。悪循環だ。どこかでこの流れを断ち切らないと。

「おー、黄瀬ー」
「あ、青峰っち?」
「青峰ー。ちーっす」
「よぉ、名前」

私が溜め息を吐いた時、教室の扉が開き青峰が入ってきた。彼は私たちに声をかけると歩み寄ってくる。

「どうしたんスか、青峰っち」
「どっちでもいいから辞書貸してくんね?」
「辞書……?」
「青峰っちの口から辞書……?」

青峰の口から辞書なんて言葉が出てくることがレアすぎて思わず黄瀬と一緒に口元を押さえてしまう。青峰はなんだよと眉をひそめて「忘れたら課題が出るってことを忘れてたんだよ」と言い訳を口にした。流石青峰と感嘆してしまうが、感嘆すべきことではないということに気付き、苦笑が漏れる。

「一応私も黄瀬も持ってるけど」
「まじか」
「ちょうど使う授業があったんスよ」
「どっちの借りる?」
「あー………なら、名前で」

青峰がまさか私を選ぶとは思わなくて一瞬何を言われたか分からなかったが、すぐ切り替えて引き出しから辞書を取り出す。黄瀬は気に入らないのか膨れている。

「はい、辞書」
「さんきゅ」
「いえいえ。それにしても、なんで私の辞書を選んだの?」
「そーッスよ!オレだって持ってるのに」
「は?んなもん女が使ってるヤツのが綺麗でいいだろうが」

また、何を言われたか分からなかった。
思考が停止するが、このままじゃいけないと必死に鞭を振るい意識を持ち上げる。さっきまで不満そうだった黄瀬は餌を貰えた犬のような笑顔でこちらを見てきた。

「ちょ、ちょっと待って青峰。私を女だと言いましたが、こんながさつな奴のどこに女の子要素が……」
「はあ?何言ってんのかわかんねーけど、お前は丸い文字書くし、カラオケだとアイドルの歌ばかり歌うし、お菓子好きだし、じゅーぶん女だろ」
「いやいやいやいやいや……」

まさか青峰に女の子扱いされるなんて思わなかった。
だってだってだって、あの青峰だよ? 粗暴な男ナンバーワンなこの男にこんなことを言われるなんて。完璧に不意打ちを食らった。

「あと」

違う違う と頭を振っていると、ぽんぽんとその頭を撫でられた。

「こんな小さいしな」
「…………っ!!」

どこか優しく笑みを含んだその言葉に、完全に落ちた。
私はバレーをやっているから普通の女の子よりは全然大きい。だから、そんなことを言われたのははじめてだった。

顔に熱が集まる。

「じゃあな」

青峰はひらひらーと手を振り、教室を出ていく。黄瀬はずっとだんまりな私に心配そうな声をかけてきた。
その言葉が脳に入らないくらいは混乱している。

まさかまさかまさか。
いやいやいやいや。
そんな、いやいやいやいや。

嫌。

私、青峰の言葉に熱くなってるの?

嫌嫌嫌。

「ぜ、全ッ然、ときめいてないから!」

がばりと頭を上げると、黄瀬に「真っ赤なんスけど」と呟かれた。

黙りなさい黄瀬涼太。
私が、青峰なんかを好きになるなんて………。

「あああ、青峰の………ばかっ」

あるから困るのだ。

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