007




というわけで、雲雀さんにお礼をするために学校中を探し回っているのだが…。全然見つからない。

そもそもクラスどころか学年も知らないし、風紀委員の部屋がどこにあるかも分からない。よくよく考えると本当に謎だらけの人だ。

あーもう!早くしないと昼休み終わっちゃうよ!
雲雀さんを見付けるために走り回って疲れてきた。昼ごはんのお弁当を急いで食べたのに、労力の全てが無駄になってしまう。
そろそろ諦めて教室に戻ろうかな……。私は自分の教室に戻るために廊下を曲がる。

「うわっ」

その時人にぶつかった。反動で二、三歩後ずさるが倒れはしない。
しまった。走ってたから完全に前方不注意だった。
すぐ謝ろうと顔を上げ、血の気が引く。

「………また君か」
「ひば、りさん」

そこには既にトンファーを構えている雲雀さんがいたからだ。

本当にどうして、こうタイミングが悪い時に遭遇してしまうのだろう。
廊下を走ることは歴とした校則違反である。

「校則を違反したんだ。咬み殺しても構わないね?」
「ちょ、ちょ、待ってくださいっ」
「待たないよ」

待たないでしょうね! 雲雀さんはそういう人だ。
避けてきたからこそよく知ってる。そしてトンファーがめちゃくちゃ痛いのも知ってる。
今も顎には湿布が貼ってあるのだ。剥がしてもいいけど、内出血で青黒い。

「せ、せめてお礼を言わせてください!」
「礼?」

またトンファーで打たれたら気絶してしまうだろうから、私は今の内にと声をあげる。折角会えたのだから言っておかないと損だ。これのために走って気絶しかけてるんだから。労力を無駄にはしたくない。

「昨日は校則を破ってしまって申し訳ありませんっ……。そして、わざわざ家にまで運んでくださりありがとうございます!」

どうして住所を知っていたかが気にならないかと聞かれたら、そりゃあ気になるけれど、相手は雲雀さんである。全校生徒の住所を知っていてもおかしくない。そういう人だから。

「ああ、そのこと。あんなところで気絶されても困るからね。それに、あのまま君を放っておいたら補導されてしまうだろう?」
「ええ……まぁ……確かに…」

あのまま気絶していたら確実に9時を回っていたし、親が警察に連絡を入れていたかもしれない。「それは僕の本意じゃないからね」雲雀さんは当然のごとく言う。

意外だった。
雲雀さんは気に食わないやつをただ咬み殺してるだけだと思っていたけれど、ちゃんと考えていたんだ。
いや……出会い頭に殴られたわけだけど……考えていると言っていいのだろうか。衝動的に動くけれど、それを淡々と処理しているみたい。

「で、礼というのはそれだけ?」
「え?えぇ、はい……」
「そう。じゃあ、咬み殺すよ」
「あ、はい」

私は来るべき痛みに目を閉じる。

ん?
あれ?
なんで私は従順に目を閉じているんだ?

今、絶対に流れに乗せられた!

「わ、ま、まって………!!」

時既に遅し。

雲雀さんの重い一撃は私の鳩尾に入った。

ああ……顎には昨日の怪我があるから避けてくれたのかなぁ。
バカだなぁ私。なんでこんなことで感謝しかけてるんだ。

顎も鳩尾も、全部雲雀さんがやったんだってば。

昨日とはまた違う痛みに意識が遠退いていく。また気絶するんだ。
午後の授業出れないなぁ…。サボれると思えばいいか……。

もう、むり。
視界がチカチカする。
意識、保てないや……。

おやすみ、なさい………。

私は雲雀さんの姿を捉えながら意識を手放した。