ベルと電話をしている時、グラウンドから歓声が上がった。
何事だろうと校舎裏から身を乗り出すとA組のみんなが項垂れているのが見える。歓声を上げてるのはB組C組みたい。
私はベルとの通話に区切りをつけ、校舎裏を出る。知らない内にお昼御飯の時間が過ぎていた。バレないように後ろの方で食べてたら大丈夫だよね。
「あ、棒倒し……」
どうやら棒倒しの準備が出来たらしいが、様子がおかしい。
まずグラウンドに2チームしかないこと。
そして、片方が、もう片方のチームの倍人数がいること。
更に、それはどう見ても、A対B・C。2対1の戦いであること。
「どういうことよこれ……」
私が話してる間に何があった。
A組に戻ると、みんな心配そうにグラウンドを見つめている。
「ねぇ、どうしたのこれ」
クラスメイトの一人に声をかけてみた。彼女はこちらを見ると「聞いてなかったの?」と首を傾げる。電話していて、と説明したら納得してくれた。
「ツナが命令して他の組の総大将を襲ったらしくて、審議の結果こうなったの」
「うわぁ……」
絶対リボーンだ。気の弱いツナがそんなこと命令するとは思えない。かわいそうに。私女子だから応援してるよ。
「ん、そういえば」
B組もC組も総大将が襲われたのに、なんでB・C連合の棒に人が乗っているんだろう。新しい総大将かな。
支えている生徒達がやけにピリピリしている。
「んー……」
目を凝らしてよく見てみると、黒い学ランがなびくのが見えた。自然に「げ」という声が漏れる。
あの人制服のままで何してるの。応接室にいるんじゃないの。雲雀さんがこんな群れの頂点にいる光景が不思議で仕方ない。
ある意味適任だけど…。
『それでは、棒倒しを開始します。位置についてください!』
なんて恐ろしい光景だ、B・C連合。圧倒的に数が違いすぎる。
それでも応援しなきゃ。
「山本ぉーっ!ツナぁー!獄寺くーんっ!」
クラスメイトの歓声に混ざりながら、声を出す。
勝てるとは思えない状況だけど、勝ってほしい。
雲雀さんが負けるということが想像できないけど、勝ってほしい。
根拠はないけど、勝ってほしい…!
『用意!!』
一瞬、空間が無音に包まれる。
『開始!!!』
その声と共に雄叫びが上がり、地が揺れる。
決戦が開始された。肌がビリビリと震え、短絡的に理解した。
私は固唾を飲んで見守ることしかできない。応援したくても圧倒されて声が出ないのだ。
笹川さんは暢気に手を振りながら応援しているけれど。
…可愛いなぁ。
いや、私もこうしちゃいられない。
「……頑張れぇええ!!!!」
深く息を吸い、声を張り上げる。
男子には聞こえないかもしれない。でも、言わずにはいられなかった。
結論から言うと、A組は負けた。
しかし、それだけじゃない。
何があったのか分からないが、その後爆発を伴う乱闘が始まったのだ。
先生も止めないし、女子は「男子ー……」と哀れんだ目をしているだけだし、雲雀さんなんていつの間にかいなくなっていた。
笹川先輩と獄寺くんがばったばったと敵をなぎ倒していく。
山本は基本避けているだけだが、時々申し訳なさそうに攻撃に転じていた。
喧嘩だけで言うと、A組が圧倒的に強い。勝ったはずのB・C連合が無惨なほどに崩れていく。
これって…こんな競技だったっけ……。
見ていられないと視線を逸らしたその時、視界に見知った顔が入る。
「奈々さん!」
「あら?胡桃子ちゃん」
ツナのお母さんの奈々さんだ。足元にはランボまでいた。
「久しぶり、ランボ」
「胡桃子ー!」
初めて会った時に泣きつかれたのもあり、ランボとはもうすっかり知り合いだ。街中で偶然出会うこともあり、ちょっとずつ仲良くなってきた。
私としては、いつ10年後のランボになるのかと期待しながら見ている節もあるが。
イケメンは正義だ。例え泣き虫だとしても。
「奈々さんは体育祭を見に来たんですか?」
「ええ、そうなの。胡桃子ちゃんのお母様は?」
「あ、私は来てないです」
そうなの。と奈々さんは笑い、ランボを抱えあげた。
「今ランボくんをお手洗いに連れていっていてね、戻るところなんだけど、胡桃子ちゃんも来る?」
「いいんですか?行きたいです」
じゃあ一緒に行きましょう。と歩き出す彼女の背中を追いかける。グラウンドから聞こえる爆音を、奈々さんは気にしていないみたい。というか、気付いていないみたいだ。山本並みの鈍感…。
奈々さんの後についていくと、一枚のレジャーシートにたどり着いた。そこには私と同い年ぐらいの少女と、綺麗な外国人の女の人がいた。
「はひ?どちら様ですか?」
私は奈々さんに促されるままレジャーシートに座る。すると少女が首を傾げた。この子もなかなか可愛い……。
「はじめまして、私はツナのクラスメイトの浜内 胡桃子です。よろしくお願いします」
奈々さんと一緒にいるということはツナの知り合いだろうと予想をつけ、取っ付きやすいような挨拶をする。少女は「ツナさんのクラスメイトさんですか!」と目をキラキラさせた。
「私は三浦 ハルです!よろしくお願いします!胡桃子ちゃん!」
「私はビアンキよ。貴方のことはリボーンから聞いているわ」
「え?リボーンから?」
そうよ。と外国人の女の人は微笑を浮かべた。本当に綺麗な人だ。笹川さんや三浦さんは可愛い感じだけど、このビアンキさんは近寄りがたい美しさ…みたいな。
「私、隼人の姉なの」
「隼人……?」
隼人ってなんだっけ。
どこかで聞いたことがある気がするのだが……。
うーんと悩んでいるとビアンキさんはくすりと笑って、「獄寺隼人…こう言えば分かるかしら」と説明してくださった。
ん……?
………っていうか、隼人って獄寺隼人くん!?
ということは、獄寺くんのお姉さん!? 確かに目とかどことなく似ているけれど、分からなかった…。
獄寺くんのお姉さんということだから、きっと彼女も油断ならない人なんだろうな。
美しいバラにはトゲがある、そんな在り来たりな言葉が頭に浮かんだ。
まだ乱闘は終わらない。