033




私が目を覚ましたのは爆音が聞こえたからだ。

「え、え……?」

目を覚ましたのに視界は真っ暗。
何があったのか分からない。
応接室に呼ばれて、そこでツナと獄寺くんと山本が雲雀さんにのされて、私も雲雀さんに殴られて……それから?
いまいち状況把握できずにいると、ゆっくりと視界に光が射してきた。

「雲雀さん………?」

雲雀さんの整った顔が間近に見える。彼は私の反応を見て、そっと息を吐いた。

「……ケガはないね」
「え? あ、ありませんけど…」

よかった と微笑んだ雲雀さんは私に体重をかけてくる。ソファに預けた背中が沈む。

「え、え、雲雀、さん…?あの」
「赤ん坊が爆弾を取り出したんだ。咄嗟だったけれど、守れてよかった」

赤ん坊といえばリボーンだろうと脳内で自己完結。彼が応接室に来たというわけか?
彼なら爆弾を取り出すのも頷ける。そして、その被害から雲雀さんが守ってくれたということか。多分。

……雲雀さんが、私を守ってくれた?
そういう意味だと思うけれど、自分で言っても不思議な気分。

「あ、ありがとう、ございます…」

さっきまでは許せなくて、怖くて仕方なかった人に感謝するなんて、複雑な気分だが、守ってくれたのは確かだろうから感謝を告げる。
雲雀さんはくすりと笑うとまた私の頭を撫でた。今度は怖くない。慈しむような手付きにトンファーで殴られる前とはすっかり気持ちが変わってしまった。なんでこの人はこんなにズルいの。分かんなくなってきてしまう。

「あの、雲雀さん……。苦しいです…」
「そう」
「えっと」
「我慢して」
「横暴……」

雲雀さんに体重をかけられてそろそろ苦しくなってきた。息苦しいのもあるけれど、心臓も苦しい。
こんなに側に雲雀さんを感じるなんて、私どうにかなっちゃうかもしれない。鼓動が煩すぎて頭の中が真っ白になってくる。

「ひばり、さん、…しんじゃいそうです」
「……!!」

私の一言に雲雀さんは飛び退いて下さった。
やっと息が出来る。私は深く呼吸を繰り返した。

「ねぇ、生意気だよ。君」
「え……?」

どうして雲雀さんは殺気を放っているのでしょうか。

トンファーは構えてないけれど、触れたら咬み殺されそうな雰囲気をまとっている。

いきなり態度が変わった意味が分からない。どうすることも出来ずにただ視線を泳がせていると、雲雀さんはため息を吐いた。

「はぁ……君は本当に、僕をイライラさせるね」
「ええ!?お、応接室出ていったほうがいいですか?」
「そっちの方がイライラするよ」
「どうすれば…!!」

私は身体を起こし、雲雀さんに抗議の声をあげてみる。彼は無表情のまま私の隣に座った。
今やっと周囲に目がいったけれど、ほんとに爆発の跡が見れる。山本やツナ、獄寺くんの身体は見えないから、リボーンが運んでくれたのだろう。私も連れていってくれたら、と思ったが雲雀さんが守ってくれたのだから連れていけなかったのか。目を覚ました時の状況から、覆い被さってくれたのは理解できたし。

「君は僕の視界にいればいいよ」
「む、無理です!」
「そうだね……君をサボらせるわけにもいかない。僕が校則を違反させては風紀が乱れる」
「ええ……まぁ…」

確かにそうだけど、それだけではないというか、私の意思というものもあるのですが。天下無敵の雲雀さんには関係ないのだろう。

「せめて…」

隣に座った彼がこちらを真剣な瞳で見つめてきた。更に距離も詰めてきた。
彼はソファに手をついて、ずいっと顔を近付けてくる。至近距離にある美形に心臓が跳ねた。

「雲雀、さん…!?」
「………なんでもないよ」

雲雀さんはそう漏らし、距離をとった。私は更にそれから距離をとる。すると雲雀さんはむっと唇を尖らせた。
そんな顔されてもそろそろ心臓が限界だ。彼は自分がかっこいいということを自覚してほしい。何人女の子を落とせば気がすむのだろう。私も落とされそうだよ本当に。

「あの、雲雀さん……」

そういえば昼休みであることを思い出し、教室に戻りたいことを告げようと思った時、非情にチャイムが鳴り響く。
なんということ。隣に雲雀さんがいるというのに。

「チャイムが…鳴ったね」
「あの、その、私は、別にサボりではなく」
「そうだね」

雲雀さんの優しい言葉に安堵のため息が漏れる。流石の雲雀さんでも、そうだよね、状況が状況だからね、分かってくださるよね。

「送っていこう」
「え!?」

雲雀さんは私の腕を掴むと、ズンズンと歩き出す。
止める方法なんてあったもんじゃない。どうしてこの人はこんなに唯我独尊なんだろう。
いや…よく言えば気にかけてもらっているってことだし、喜ばしいことだよね。そう思おう。

こうなった雲雀さんはもう止められないので、私は大人しく教室まで送ってもらうしかない。

「もう…」
「なに?」
「なんでもありませんよ」

雲雀さんはそう と呟き、廊下を歩いた。彼がいれば怒られないし、安心して戻ろう。