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夏休みもあっという間に終わり、始業の日がやって来た。
朝に山本、ツナ、獄寺くんにイタリア土産を渡し、始業式の時間まで読書をする。ツナが少しばかり元気がないみたいだったけど、何かあったのかな。楽しいことには見えなかったら余り根掘り葉掘り聞かないけれど、ちょっと興味は引かれた。
ちなみに雲雀さんへのお土産は夏祭りの帰り、家まで送ってもらった時に渡してある。

始業式を終え、短い注意事項を受け、今日はもう下校だ。さっさと帰ってしまおうと鞄を抱え校門を目指すと、部室棟の方から何かが割れるような音がする。
校門に向いていた足が、くるりと方向転換する。自分の好奇心が忌まわしい。気になって仕方ない。

部室棟に駆けつけると、ボクシング部の方から声が上がっている。恐る恐る中を覗いてみると、頭から血を流した男の人と目があった。思わず喉が鳴る。

その男性は真っ直ぐこちらに歩いてくると、部室の扉を開く。な、なんでこんなに身体中怪我だらけなの!

「お前も入部しにきたのか!!女でも歓迎するぞ!!」
「ひぃいい!!違いますぅう!!」

男性は私の腕をがっしり掴むと、中に引きずり込んだ。
なんでこんなことに…と肩を落としていると、「浜内さん?」と声をかけられた。
すごく可愛らしい声に必然的に顔が上がる。そこには学園のマドンナ、クラスメイトの笹川京子さんが立っていた。

「笹川さん…?」
「もしかして浜内さんもお兄ちゃんにムリヤリ誘われたの?」
「え……」

お兄ちゃんって……まさか、嘘でしょ。
男性は私の手を離すと、これを着けろとグローブを差し出してくる。いや、いいですと拒否しているのだが、ぐいぐいとグローブを押し付けられては受け取るしかない。

「あれ……?浜内もボクシングやんのか?」

聞き覚えのある声に振り向けば、そこには馴染みの三人。山本、ツナ、獄寺くんが立っていた。
三人ともどうしてここに、と声をかけるとツナが言いにくそうに頬を掻く。色々あったのはなんとなく分かった。

「もう!お兄ちゃんは血が流れてるんだから今日はダメ!」

笹川さんの可愛らしい声にそちらを向くと、先ほどの男性に何か言っているみたい。お兄ちゃん……って、もしかしなくてもそうだよね。この男性が…笹川さんのお兄さん。
に、似てない…。

「ごめんね、浜内さん。お兄ちゃんの言ってることは気にしなくていいから」
「あ、うん。そうするね」

私は受け取ってしまったグローブをボクシング部の子に渡し、山本たちの方に向かう。すると肩に何か重みがかかる。

「胡桃子、ちゃおっス」
「あれ?リボーン?」

いつものようにスーツに身を包んだリボーンが私の肩に乗っていた。ツナは「お前、いつの間に着替えたんだ」と声をかけていたが、リボーンは無視してしまう。獄寺くんは「リボーンさん!」と目を輝かせ、山本は「久しぶりだな」と暢気な挨拶をしていた。気が抜けるなぁ。

「あいつは笹川了平、お前と同じファミリー候補だぞ」

リボーンは私にだけ聞こえる小さな声で囁いてきた。あの笹川さんのお兄さんがファミリー候補…。頭から血を流していたけれど大丈夫かな…。

ん? いや、待て。

「ちょっとリボーン、私ファミリーには入らないって!」
「ちっ」
「舌打ち!?」

今あからさまに舌打ちされた。リボーンはいつもと変わらない表情をしているが、私の耳は聞き逃していない。

「おーい、浜内!」

リボーンと話をしていたら山本たちは先に部室を出てしまっていた。私はその後を慌てて追いかける。
背後から笹川先輩の声が聞こえなくもないが、笹川さんに気にしなくていいって言われたし、無視無視。ああいう人には関わらないことが重要。

「浜内さん!また明日!」

それは笹川さんの声だった。
また明日なんて言われたことがすごく嬉しい。私は足を止めて、そちらに振り返る。

「ま、また、明日!」

笹川さんは満面の笑みで手をブンブンと振ってくれる。めちゃくちゃ可愛くて、思わず私も精一杯手を振ってしまう。流石、マドンナって言われるだけはあるよ。あれは可愛い。モテるのも頷ける。

「ちなみに、ツナは京子のことが好きだぞ」
「マジか」
「マジだ」

リボーンからの追加情報に驚く。周りはみんな知っているぞと言われたが、私知らなかった。やはり友達は作るべきかも。なんの情報も入ってこない。
いや、そう言えばツナって、よく笹川さんのこと見ていたっけ。言われてみると確かにそうかも。

「あのダメツナがねぇ…」
「面白れぇだろ」
「すっごく」

他人の恋路ほど面白いものはない。これからは二人の関係も気にしてみよっと。