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「案内してくれてありがとう、ベル」

ベルの観光案内はとても楽しかった。ガイドブックに載っているような有名どころから、ガイドブックに載っていないような隠れた名店、名所までも案内してくれたのだ。
やはり現地の人と回ると違う。すごく充実した時間だった。

「だから、オレのお礼だからいーの」

今は公園で休憩している。
少し街外れにあるこの公園は、広く自然が豊かなのだが、その立地もあってか余り人がいない。穴場なのだとベルは教えてくれた。
ベンチに腰かけた私たちは、先ほどベルが教えてくれたお店で買ったジュースを飲みながらの休憩中。とても美味しい。

「そうだ、胡桃子」
「なに?」
「オレさ、寿司が好きなんだけど、日本に上手い寿司屋ってねぇ?」
「お寿司屋さんかぁ」

ぱっと思い付くのは一件あるけど、全然都会じゃないからあまり参考にならないかな。

「一件知ってるけど、私の家の近所だからそんな都会じゃないよ?」
「別にいーよ。そこ、王子に教えて?」

私はベルに山本ん家、竹寿司の話をする。彼は相変わらず口許を笑みで飾りながら私の話を聞いていた。
身内贔屓みたいになるが、それでも竹寿司は美味しい。ベルの口に合うか分からないけれど、是非食べてほしい。

「ふーん……いいね、そこ」

私の説明が終わるとベルは嬉しそうに言ってくれた。

「日本に来る機会があったら行ってみてよ。美味しいから!」
「ん、りょーかい。そん時は胡桃子がオレに町を案内してくれよ?」
「うん!」

私の返事にベルはししっと笑い、何かを思い付いたように「そうだ」と呟いた。どうしたのだろうと考えているとベルはポケットから携帯を取り出す。

「胡桃子、携帯持ってる?」
「え?うん、持ってるけど…」

私が鞄から携帯を取り出すと、彼はそれを手にして操作を始めてしまった。これ、私見たことがあるというか、自分がやったというか。

「アドレス、打ち込んでるの?」
「そっ♪」

やっぱり、アドレスを打ち込んでるみたい。私も雲雀さんの時にやったから、既視感があったのだ。
しばらく待っていると、私が雲雀さんのアドレスを打ち込んだ時より遥かに早い速度で携帯が返ってきた。ベル打ち込み早い。私は携帯歴が浅く、まだなれてないけれど、それにしてもベルは早い。それは分かった。

「日本に行くとき、連絡するわ」
「ほんと?」
「こんなことで嘘吐くかよ、バーカ」

ベルは私の額を人差し指でぐりっと押すと、立ち上がる。私も痛む額を押さえながら続いて立ち上がった。

「ホテルまで送ってってやる。どこのホテル?」

私は鞄に入れてあったガイドブックを取り出し、ホテルのページを開く。そこを指差せばベルは「オッケー」と歩き出した。
優しいなぁ、ベル。

「ほんとにありがとう、ベル」
「ししっ♪気にすんなって。ほら、王子優しいから」
「あはは!ベルって自分のこと王子って言うの口癖なの?」
「ちげーよ。まじ王子なんだって」
「はーいはい」
「うっわ。胡桃子、絶対信じてねぇ」

短い時間だったけれど、ベルに案内してもらう時になんとなく感じていた。
彼、すごい自信家。自分のこと王子って言うし、天才って言うし、誉める言葉ばかり。
確かに優しいけれど、自分で言っているのを聞いてしまうと分かって優しくしていると感じてしまう。多分実際そうなんだろうけど。

ベルは少しだけ唇を尖らせると、早歩きをし始めてしまう。頑張って追いかけるが、これが中々早い。

「ごめんってば!ベル!待ってよ、早い!」
「うしししっ♪早くしろよ胡桃子!オレも早く戻んなきゃキレられんだから!」
「はーい!分かってるよ!」

最終的にはほぼ小走りの状態でベルに追い付く。追い付いた私を確認すると彼は普通に歩き始めた。絶対楽しんでる、この子。

それからベルはちゃんと私の歩幅に合わせて歩いてくれた。悔しいけれど、やっぱり優しい。
これは分かってやってるのかな?計算ずくなのかな?
それでもいいや。嬉しいことに変わりはないし。

嬉しくてニヤニヤしたまま歩いていると、それに気付いたベルに小突かれた。「ニヤニヤすんなよ、気持ちわりーな」そう言うベルだが、嫌そうではない。だから私も笑って返す。
すごく気が合う。ベルといると楽しくて、時間があっという間だ。

やっぱり、非日常から離れて旅行に来て正解だった。
スパナくんという可愛い友達や、ディーノさんとの素敵な出会い。
それに、ベルとの観光。
イタリアに来てよかった。
怖いことは確かにあったけど、今は本当に楽しくて仕方ない。

イタリアにいられるのはあと二日。たくさん楽しんで、たくさん思い出作ろう。
日本に返ったらマフィアとか、殺し屋とか、そういう生活に戻ってしまうのだから、今の内に楽しまなきゃ損だよね!