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7月も中頃。みんなが待ちに待った夏休みがやってきた。山本とツナはテストの点数が悪くて夏休み中も補習があるみたいだけど、もちろん私は問題ない。
だからこそ日中からコンビニに行けるわけだけど。

コンビニで好きなお菓子を買って家に帰ろうとした時、見知った背中を見付けた。
あの少しだけ曲がった背中に、派手な銀髪は一人ぐらいしか思い当たらない。

「ご、獄寺くん…!!」

見付けたら声をかけるのが礼儀だろうと思い、名前を呼んでみると彼はこちらを振り向いてくれた。

「あ?…ああ、浜内か」
「うん、偶然だね」

相変わらず眉間にシワが寄っていて怖い顔をしている。
しかしどうだろう。雲雀さんとたくさん関わったからか、あまり恐怖は感じない。
恐るべし、雲雀さんマジック。

「あ、そうだ。獄寺くんは携帯持ってる?」
「まあ…一応は」

なんと夏休みに入ってすぐ、お母さんが私に携帯を買ってくれたのだ。最近遅くに帰ってくることがあるから、連絡がとれるようにという意味があるらしい。
私は自分の携帯がすごく欲しかったから、きっとどんな理由であろうと了承しただろう。
もちろん、携帯を買ってもらったからには親との連絡だけに使うつもりはない。

「メールアドレス交換しない?」
「メルアド?別に構わねーけど」

私が自分の携帯を手にして笑みを浮かべると、獄寺くんはポケットから携帯を取り出してくれる。赤と黒の二色でまとめられた彼の携帯はシックでかっこいいし、彼らしさも失っていない。

こうして私の電話帳に三人目が登録された。
母、父、獄寺くんだ。驚くべきラインナップ。

獄寺くんに山本とツナは携帯を持っているかと聞いてみたのだが、持っていないと言われてしまった。ちょっと期待していたのだけど、持っていないなら諦めるしかない。

私は獄寺くんと別れ帰路につく。
コンビニで買ったお菓子を食べながらさっさと準備してしまおう。

実はこの夏休み、私はイタリアに旅行するのだ。しかも一週間も。
初めての海外旅行だから楽しみで仕方ない。

まあ、その場所がイタリアっていうのはちょっと引っ掛かるけど……なんせボンゴレの本拠地だし…いやしかし……大丈夫だろう…。
そもそも私はファミリーの一員ではない!だから大丈夫!
そう言い聞かせないと気が気でない。

金髪の外国人に会えると思えば心配もどこかにいってしまう。

何を隠そう、私は天然の金髪が大好きなのだ。好みの男性のタイプをあげろと言われたら真っ先に「金髪」と答える自信がある。
ヨーロッパなんてきっと金髪がわんさかいるだろうから、私の心は弾みっぱなし。素敵な出会いがあるように祈らなくちゃ。

るんるんとスキップをしていると家についた。やっぱり幸せなことを考えていると時間が早く感じられるなーと思いながら玄関の扉に手をかけると後ろから声をかけられる。

爽やかなその声はいい印象しかない。
ワクワクした心をそのままに振り返ると、山本が片手をあげて立っている。あげてない方の手にはビニール袋がかかっていた。

「山本!」
「よーっす!」

私は扉から手を離し、山本に駆け寄る。
彼に「ここ、浜内ん家か?」と聞かれたので頷くと、案外近いのなと歯を見せてくれる。山本の笑顔を見ていると幸せな気持ちになれるから大好きだ。

「山本はどこにいくの?」
「ツナん家で補習の宿題一緒にやんの」

これ差し入れな と山本はビニール袋を掲げた。補習組、お疲れ様です。

「あ、そうだ。浜内も一緒に宿題やってくんね?」
「え?私?」
「一人答えが分かるやつがいねーと宿題もできねーだろ?」

と言う彼の言葉はもっともなのだが、残念ながらタイミングが悪い。「今から旅行の準備があって無理なんだ」と答えると山本はあからさまに肩を落とした。そんな反応されたら私まで切なくなっちゃうよ……。

「あ、そう言えばさっきコンビニの前で獄寺くん見付けたよ」
「お!本当か!?」
「うん本当!」

私がいけない代わりと言ったらなんだが、先ほど見かけた彼のことを話しておく。獄寺くんはすごく頭がいいし、宿題の答えなんてすぐ導き出すだろう。
私の代わり、なんて獄寺くんには役不足だろうけれど。

「サンキュ!探してみる!」

そう言って山本は駆け出した。ほんと、元気なやつだなーとその背中を見送っていると、少しいったところで彼は振り返った。

「気を付けていってこいよー!」

イタリアへってことだろう。
私は大きく手を振り「山本は勉強頑張りなよー」と返してやった。彼は罰が悪そうに苦笑いを浮かべてからまた駆け出した。