013




このメンバーで昼ご飯を食べて、大丈夫なわけがない。
奈々さんは回覧板を回しに外に出てしまって食卓が無言に包まれた。居心地の悪い中、そんなことを気にしずにパスタを食べているのはリボーンぐらいだ。

ランボは緊張した面持ちでナイフを構え、それをリボーンに投げる。
まさかと思っているとリボーンはそのナイフをフォークで弾いてしまった。なんとなく分かっていた。
弾かれたナイフはランボのおでこに刺さる。ランボは頭から血を流しながら涙も流し、顔面はぐちゃぐちゃになってしまっている。

大泣きしだしたランボはどこからかバズーカを取り出すと、自分にむけて構える。ツナはそれを見たことがあるらしく驚愕の声をあげていた。

どうするんだろうと思っていると、ランボは自分にむけたバズーカの引き金を引いてしまう。

「わぁっ」
「きゃっ」

爆音と爆煙。
ダイニングに広がる異様な煙に咳き込んでいると、徐々にその煙が晴れてきた。リボーンは表情一つ変えずパスタを頬張っている。

「ふ〜…」

煙が晴れたその場に立っていたのはたれ目で天然パーマのお兄さん。見たことがない人の突然の登場に上手く言葉が出てこない。

「やれやれ。どうやら10年バズーカで10年前に呼び出されちまったみてーだな」

10年バズーカとは先ほどのバズーカのことだろうか。じゃあ何?10年前に呼び出されたって、じゃあ、この人…。

「お久しぶり、若きボンゴレ10代目。おや、10年前の胡桃子さんまで」

いやいやどう考えたって繋がらない。私が首を振っているとそのお兄さんは目を丸くした。

「そうか…10年前の胡桃子さんはこんなに小さな方だったのか…」
「え、え?ど、どういうこと…?」

お兄さんは私の疑問に微笑みを浮かべると前髪をかきあげる。

「10年前の自分が世話になってます。泣き虫だったランボです」

「な、なんだってー!!?」
「うそでしょ!!?」

私とツナの驚きが重なる。
それもそのはず、こんなかっこいいお兄さんがあのランボだなんて信じられない。10年という月日が怖い。
いや、15歳にも見えないけれど! 大人っぽすぎるというか、色気がすごい…。目に毒だ…。

どうやら10年バズーカで撃たれた者は10年後の自分と5分間入れかわることができるらしい。10年後のランボがそう説明してくれた。
なんて恐ろしいバズーカなんだろう。どこぞの青い猫型ロボットもビックリどっきりだ。

10年後のランボは息を吐くとリボーンに声をかける。

「よぉ、リボーン。みちがえちゃっただろ?オレが、おまえにシカトされつづけたランボだよ」

確かに見違えてる。このランボならきっとリボーンも……そう思い視線をやるが、彼はなおも食事を続けている。流石リボーン……。まったく興味がないようだ。

ピクリと身体を揺らしたランボは私を背中に隠してくれた。何をするんだろうと思っていると彼はポケットから牛の角のようなものを取り出す。

「胡桃子さん、危ないので隠れていてください。貴方を傷付けたらオレは色んな人に殺されちまう」
「そ、そうなの…?」

私を傷付けたら怒る人って誰だろう。並中生を傷付けたということだから、雲雀さんだろうか。そうだったら……確かにランボは殺される……。

「やれやれ」とリボーンを見据える背中には、しっかりと殺気を感じた。
彼は取り出した角を頭に装着する。そのシルエットはどことなく五歳児のランボに似ていた。

「サンダーセット」ランボが小さく、低く呟くと窓の外が瞬く。 爆音に思わず蹲ってしまった。雷だ。あんなに晴れていたのに、なんでいきなり雷なんか。

「オレの角は100万ボルトだ」

見るとランボの角が強く瞬いていた。
100万ボルト……って、雷をまとっているということ?
あんなに泣き虫だったランボが、10年でこんなことまで出来るようになるの?
下半身が砕けて、立つことが出来ない。ランボはこちらを振り向き、少し口角をあげた。

「本当に、強くなられた……」
「え……?」

それは私に放った言葉だろうか。そう聞きたかったのに、ランボはすでに前を見ていて、何も言えなかった。

ランボはリボーン目掛けて駆け出した。



結果としては、ランボの惨敗である。

「う………う………」

10年経っても彼の泣き虫は変わらないらしい。沢田家の玄関に座り込み、えんえんと泣き続けている。

リボーンはランボの攻撃を避けることはせず、ただその頭にフォークを突き刺したのだ。ランボはそれだけで泣き叫び玄関まで逃げてきたということ。

こんなかっこいい人が泣き虫なんて………意外と時間は人を変えてくれないのかもしれない。

とりあえず、五分経つまで側にいてあげよう。