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休日の朝、私がご飯を食べるために階段を下り、リビングに入るとお母さんに声をかけられた。

「ああ、胡桃子おはよう」
「お母さん、おはよう」
「はい、これお手紙」
「え?」

お母さんは私に手紙を渡すとキッチンに消えていく。私はリビングのソファに座り、手紙を開封する。封筒に差し出し人の名前はなかった。

中にある紙を取りだし、開き、目を通す。

「………リボーン…」

そこに書かれていた名前にため息が漏れる。リボーンからの手紙なら封筒に名前がないのも納得できた。ほら、殺し屋だし。

手紙の内容はこうだった。

午前10時に指定の場所に来い。

これだけだ。
指定の場所ってどこだろうと考えていると、二枚目があることに気付く。そこには指定の場所の周辺地図が書かれていた。そこには知っているお店の名前も書いてあるためなんとか辿り着けそうだ。

「胡桃子ー!朝ご飯食べちゃいなさーい」
「あ、はーい」

私は手紙を机に置いて立ち上がる。とりあえず朝ご飯を食べてしまおう。



朝ご飯を食べ終わった私は地図を頼りに指定の場所に赴いた。
赴いたんだけど……。

どこからどう見たってただの一軒家だ。ここに何があるのだろうと思っていると表札が目に入る。

『沢田』

え、もしかしてこの家ってツナん家?
いやというか、そうとしか考えられない。
だとしたら入ってこいってことなのかな?

私は玄関にあるチャイムを押してみる。人違いだったら謝ればいいだろう。

『はぁーい』

インターフォンから若い女性の声が聞こえ、反動的に「あ、はい」と答えてしまう。

「あの、私、浜内胡桃子です。ツナ、つ、綱吉くんはおられますか?」
『あら、ツナのお友達かしら』
「は、はい!」
『今開けますね』

その言葉を最後にインターフォンはぷつりと切れる。
しばらくその場で待っているとガチャリと玄関の扉が開く。そこに立っていたのはツナそっくりの女の人だった。
わぁ、きれいなお母さん。

「はじめましてー、綱吉の母の奈々です」
「あ、わざわざありがとうございます。浜内胡桃子です」

奈々さんはにこりと笑顔を浮かべ、快く家にあげてくださる。
いいお母さん。羨ましいなぁ。自分のお母さんが嫌いってわけじゃないけれど。こんな朗らかなお母さんがいたら楽しいだろうな。

私はお母さんの案内で階段を上り、ツナの部屋に入る。ゆっくりどうぞ と言ってくださる奈々さんに会釈で応えた。

「よぉ、来たか、胡桃子」
「え!?浜内!?」
「こんにちは、リボーン、ツナ」

私を呼んだリボーンは当たり前のような顔をし、ツナは目を丸くした。ツナ聞いてなかったんだ。
私はリボーンに促されツナの右隣に座る。何をするんだろうと思っているとリボーンが教科書を取り出した。
もしかして勉強をしているのだろうか。あ、そうか、リボーンってツナの家庭教師なんだっけ。それなら勉強をしてもおかしくはない。

「胡桃子、この前の数学のテストの点数は何点だ?」

いきなりなリボーンの問いに私は首を傾げてしまう。しかしすぐに先日の数学のテストの点数を口にした。

「確か71点」
「え!平均より上!すごい!」

ツナよ……余り目を輝かせないでほしい。至って普通だから。
そりゃあ万年赤点のダメツナからしたらすごいかもしれないけれど、この世界には獄寺くんというね、秀才がだね、いるんだよ。
すごいっていうのは、ああいう人を言うんだと思う。
それに比べて私は、ただ補修を受けることや嫌みを言われることなど、様々な厄介ごとから逃れたくてちょっと勉強をしているだけに過ぎない。

「十分だ。今獄寺がいないからな、ツナの知り合いで獄寺の次に頭がいいやつがお前ぐらいしかいないんだ。悪いがツナの勉強に付き合ってくれ」
「えぇ………」

正直めんどくさいなぁと思っているとリボーンが手にした銃口が私の額に当たる。反射的に頷いてしまった。
それは反則技だよリボーン。だって死んじゃうじゃんか。

「あと、胡桃子」
「なに?」
「オレはツナが答えを間違えたら爆発を起こす」
「え」
「ツナが間違えたと思ったらオレの後ろに隠れろ」

なにそれ冗談? と思えども、部屋中に張り巡らされたコードとリボーンの目の前に並んだスイッチが生々しい。彼ならやりかねない。
私はそっと立ち上がり、リボーンの後ろに隠れる。隠れるほどの大きさはないけれど、きっとここなら安全。

「ツナ」
「え?」
「間違っても大丈夫。私はもう安全地帯にいるから」
「間違える前提かよ!」

正直に言うと、間違える前提だ。だってダメツナだし。

こうして、命がけの授業が幕を開けた。