王子と髪


姫がオレの髪を梳き、その間にオレはナイフの手入れをする。そんな午後。
姫がぼそりと呟いた。

「綺麗……」

多分髪のことだろう。
姫が優しく髪を梳くから変な気分になる。そんな壊れ物みたいに扱うなよ。

「うししし♪当然」

特になんの手入れもしてねーけどな。
まあ、強いて言うなら王子だから。
生まれ持った逸物の一つだよ。

「オレ、姫の髪も好きだぜ?」

手にしたナイフを服にし舞い込み、振り向く。櫛を持った姫が驚いた様子で首をかしげていた。

姫の髪に触れると彼女はくすぐったそうに瞼を下ろす。
ふわふわの髪の毛はボスとは似ても似つかない。血が繋がってないのは納得。何もかも似ていない。

「姫、天パ?」
「……わからない」

わからないって、天パだろ、これ。
傷んだ後もないし、変色も見られない。
何もしてないとは思えないほど綺麗。

オレもパーマかけっかなー。
なんか、姫と一緒のなにかがほしい。

「姫ーオレ、パーマ似合うと思う?」
「パーマ……?」
「うん、パーマ」

姫は睫毛を伏せ、思案を始めてしまった。想像してんのかな、パーマかけたオレ。

「そんなに強くなければ、いいと思う…」
「そっか♪」

姫は自分の意見をあまり全面に出さないから、今の「いいと思う」ってのはかなりの高評価。

んじゃ、パーマかけてみっかなー。
姫とお揃いだし、姫も喜んでくれるっぽいし。

このストレートともおさらばな。
これから新しいオレに生まれ変わっちゃうし♪

「んじゃ、姫、今日がストレート最後の日だから好きなだけ梳きな」
「え?パーマ、かけるの?」
「かけるよ。姫がいいって言ったんじゃん」

オレの言葉に姫は申し訳なさそうに眉を寄せた。
今となってはそういう顔されてもムカつかない。姫はどんだけ言っても変わんないから。初めてあった日からなんも変わってない。

多分、オレはそういうとこが好き。

すごい勢いで変わっていく環境の中、姫だけは置き去りのようにいつもそこにいる。
昔から何も変わらない。相も変わらず自虐行為に勤しんで、孤島のような部屋に一人で歌っている。

そこにいてくれるだけで十分だ。あとはオレが側に行くだけだから。

「姫」
「なに……?」
「オレがパーマかけたらお揃いってわかってる?」

姫は小さく首をかしげた。
やっぱり、何も分かってない。
何も分かんなくていいや。

「いきなりどうしたの、ベル?」
「んー、なんでもない」

オレは穏やかな気持ちで姫の太ももに頭を置いて寝転び、瞼を下ろした。


「おやすみ……ベル」

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