王子と瞳


庭で倒れていた姫を見つけた。
こいつ、また無駄なことしてやがる。
腹が立って頭を踏みつけると、姫がこちらを向いた。つっても、オレが頭を踏んでるから完全にこちらは向けてねーわけだけど。

「ベ、ル……」
「満足したぁ?」

足をどかすと姫はゆっくり身体を起こす。今日もまた懲りずに飛び降りたみたいだけど、骨は折れてねーみたい。血も出てねーし、頭打って気を失ってただけみたいだ。

「………」

姫は身体についた汚れを払うことなく、こちらを見上げてくる。
なんか見下ろすと余計にこいつが子供っぽく見える。
正しい年齢なんて知らねーけど、多分オレよりは年下だし。

ガキのくせにさ、バカじゃん。
痛みがないなら、ないでいいじゃん。
なんでそれを嫌がるわけ。

人と違うことを恥じる意味がわかんねーし。

「ベルの……目…」

言われて気付く。
こいつ、なんで固まってんのかと思ったらそういうわけかよ。

「始めてみた…」

少しだけ顔を綻ばせ嬉しそうに言いやがるから、イラつく。
こんなもんでそんな顔すんなよなー。

「涼しげ…で……綺麗な目、ね……」
「ししし♪そんなの当たり前。だってオレ王子だし?」
「うん……」

真っ直ぐな瞳がオレを見つめてくる。何も遮蔽物ないまま見つめるなんて初めてで、柄にもなく鼓動が高鳴る。

透明で、純粋な目だ。
自虐行為ばっかしてるくせに、なんでそんな目なんだよ。

「行くぞー」

これ以上は見たくもねーし、見られたくもねー。
だからオレは姫に背中を向けた。背後からなにか言いたげな声が聞こえるがムシムシ。

「ベル…」

無視しようと決めていたのに、その声に名前を呼ばれると足が止まる。こいつ、分かってやってんなら殺す。確実に殺す。

「一緒に行っても、いい?」
「は?飯に行くだけじゃん」
「うん。それでも…ダイニングまで……」

いつの間にか立ち上がった姫がオレの隣に立つ。そしてこちらを見ながら遠慮がちな笑みを浮かべた。

「ねー………分かってんの…?」

こんなことされたら疑いたくもなる。
ねー。ほんとはオレが惚れてんのに気付いてんじゃね?気付いててなお、そういう態度とってんじゃねーの?

オレの言葉に姫はどうしたらいいか分からないようで、ただ笑みを浮かべていた。

やっぱ、なんも知らないか…。
逆に知ってるって言われた方がスッキリだし。悩まずにすむのにさー。

「姫、嫌い」
「うん……知ってる」

なんにも知らないバカ姫。
知った気になってんなよ。腹立つから。

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