王子と傷


「ベル……」

目を覚ますと姫の顔が視界いっぱいに広がる。いつもの無表情に少しだけ心配の色が見えた。

なに? なんでこいつこんな顔してんの。

くらくらする頭で何があったかを考える。とりあえず身体を起こそうと腕に力を込めると、激痛が広がった。

「ベル…!!」

姫はそんなオレの肩を軽く押し、ベッドに横たえようとしてくる。それに反対する理由も無かったからオレは素直にベッドに横になった。

ああ、そっか。
オレ、リング争奪戦で爆弾野郎と戦ったんだっけか。

アレ、どっちが勝ったんだっけ?
頭ぶちギレてから記憶がブッ飛んでやがる。
なんかやべー攻撃受けた気もするし、追い詰めてた気も。

いや、でも全身にひどい負傷だ。
万が一……。

「ベル、ベル……!!」

細い記憶の糸を辿っていると姫に名前を呼ばれる。なんだようるせーな。話だけは聞いてやろうとそちらを向くと、彼女が何かを持っていることに気が付いた。

「これ、ベルの……」
「あ?なんだよ……」

受け取って、間近で確認して気付く。

嵐のリングだ。
ハーフリングじゃない。
完璧な形の、ボンゴレリング。

「は……はははっ」

思わず笑い声が漏れる。
すげー!笑える!

「起きたらリングが完成して手元にあるとか……王子すげー!!」

つーことは、あの爆弾野郎には勝ったわけだ!
流石オレ!ししし♪

「おめでとう、ベル」

最高じゃん。
戦いに勝って、リングは手元にあって、全身は傷だらけだけど、大嫌いなくそ自虐ドM女が笑って、最高じゃん。オレ今、最高の気分じゃん。

「当たり前。だってオレ王子だし♪」

姫は一層笑みを濃くしてから、少しだけ悲しそうな表情をする。
どうしたんだよ と聞くこともできない。姫がオレに抱き着いてきたから。
抱きつくってか、ベッドに横たわるオレに覆い被さっただけみたいだけど…。
でも、おかしくね?

「ひ、め…?」

嘘だろおいおい。
どうしたんだよ、ほんとにどうしたんだよこのくそ女。
こんなこと、今まで一度も。


「もう……こんな怪我しないで……」


お前が、言えることかよ。
バカみたいにはね上がってた心拍数が落ち着きを取り戻し始める。
ふざけんな と、思った。

「ベル、無茶しないで。……貴方が死んで、しまったら……」

誰もお前を普通の感覚に戻そうとなんかしないだろうよ。
くそ自虐女。自分のためのくせに、まるでオレを心配してるみたいに言いやがって。
ほんと、ムカつく。生意気。

「死ねよ」

オレは何も変わらねー姫の、やわらかーい腹部にナイフを突き立てる。
姫は何も言わず、何も感じず、ただオレを抱き締めていた。

そーゆーとこが、嫌い。

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