王子と歌


「オイ、ベル。チャーラはどうした」

任務を終わらせて屋敷に帰ると、男のくせになげー髪をたなびかせたスク先輩に声をかけられた。

つーかスク先輩の口から姫の名前が出てきたことにびっくり。
スク先輩の単細胞のことだからあのくそ役に立たねぇ自虐ドM女のことなんて眼中にねぇと思ってたのにさ。

「あぁ?なんでオレに聞くんだよ」
「あ゛?てめぇらよくはなしてんじゃあねぇかぁ」

は? 意味わかんね。
全然理由になってねぇし。てかよくはなしてねぇし。
あいつが勝手に自虐行為すんのを適当に扱ってるだけだろ。

こいつの目は節穴かよ、ししし。

「てか、チャーラに何の用?」
「知るか。ボスが呼んでんだよ」

は?
ボスがチャーラとか、どういう風の吹き回しだ?
あんなどうでもよさそうに扱ってるくせによ。

「やだね、めんどくせーし」
「あ゛ぁ゛?」

すごんだって嫌だ。
絶対いかね。

「う"ぉぉおい!!じゃあ誰が呼びに行くんだぁ!?」
「しーらね♪」

スク先輩のうるさい声を無視し、オレは姫の部屋に向かう。
呼びにはいかねーよ。オレが任務で不在だった間に死んでねーか見に行くだけ。

いつも通り長い廊下を歩き、両扉をノックせずに開ける。

「あ?」

チャーラは倒れていなかった。
血も流れてねぇ。

ただ天蓋つきのベッドに座り、歌を歌っている。
こういう日もある。
よくわかんねぇ、オリジナルなのか姫の家に伝わってる歌なのか王子のオレもまったく知らねぇ歌を歌ってる。

「おい、ひーめ」

ベッドに近付き声をかけると、姫は歌うのを止めこちらを向いた。
特に驚いた様子が見られなくてちょっとムカつく。
なんかあるだろ、任務帰りだぞ、オイ。

「ベル、帰ってたの」
「それだけかよ」

信じらんねぇ。
オレは任務から帰って部屋に戻る前に会いに来てやったのに。それだけかよ。

このオレが。王子のオレが、気にかけてやってんだろ。

「それだけ……?」

姫は何のことだか分からないと言いたげに首をかしげる。
あームカつく。すんげームカつく。
その首筋切りてー。

「ベル」
「なんだよ」

チャーラはオレの手を取ると不器用に微笑む。

「おかえりなさい」

なんだよ。
ほんと。

中途半端なことすんなよムカつく。

ほんと。こいつ。もう。あー。くそ。


「ん、たーいま」


こんなに気持ち悪い感覚いらね。 いらねぇのに。

姫なら悪くねぇと思うからほんと。
恋心なんてただのバカだよ。まーじで。

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