王子とナイフ


あーくそ。オレのナイフどこにいきやがった?
いつも肌身離さないものを少し離すとろくなことがねぇ。
なんでオレが屋敷中探さなきゃならないんだ。ボス以外出払ってるしよぉ。

まぁ、見付かんなかったらまた特注で頼めばいいんだけど、うししし♪
完成するまでの任務がめんどくさくなるなぁ。

いい加減歩くのがかったるくなってきた。どこかで休もうかなーとフラフラしてると思い出した。
そう言えば、今の屋敷にボスとオレ以外にも人いるじゃん。

オレは真っ直ぐ姫の部屋へ足を向けた。

長い廊下の先。まるで孤立させられているかのように存在する部屋の前に立つ。背の高い扉は中にいる人物の位の高さを表してるかのよう。
ま、王子には関係ないけどね、しし。

「ひーめ!」

オレは躊躇わず両扉を押し開いた。ノックとか王子には必要ねーの。

「っ!」

血の臭いだ。
姫の部屋から生臭い血の臭いがする。

あらあら、今度はなにしてんのかなぁ、我らの姫は。
あんまりめんどくさくないといいけど。

姫は部屋の真ん中に倒れ込んでいた。基本いつでも倒れてるなぁ、姫。

「うっわ、すっげ」

近付いてみるとすっげーエグい状態にあることに気付く。
姫の全身にオレのナイフが刺さっているのだ。そりゃあ血溜まりもできるわ。こりゃひでぇ。
手の届く範囲、くまなくナイフだらけ。ハリネズミみたいだ。ナイフネズミの方が正しいか?

なんだよオレのナイフ持ち出したの姫かよ。
またオレを道具にしやがって。まじ解せねー。ムカつくー。ししし。

「おーい、ひーめ、死んでないでナイフ返せよー」

ナイフの刺さったその背中を軽く蹴り飛ばすと、姫は目を開いた。虚ろな目でオレを見てくる。

「ああ………ベル………ごめん……ナイフ、借りた…」
「んー、いいからナイフ返せ」
「分かった……」

姫はむくりと身体を持ち上げる。でもまたすぐ倒れた。なんだよ貧血かよめんどくさー。
姫は自虐行為を死なない程度にやるから質が悪い。
もーいっそ死んで。
オレが殺したいくらいだけど、そうするとオレがボスに殺されるから却下。

「血の処理も手当ても自分でやれよ」
「うん」
「ナイフ抜くのはオレがやるから」
「うん……ごめん、ね」

謝られたのがムカついて、思わず鳩尾を蹴ってしまった。
うわーお♪すっげー飛んだ。
姫は蹴りの反動で何本かナイフが抜けた身体を見て微笑んだ。「いっぱい抜けたね」と。

まーじ意味わかんねー。
姫だけは謎。理解できない。

こんなやつ、早く死んじゃえばいいのに。

<< >>