王子と帰る場所


「で、姫がさ、また飛び降りて…」

イタリアでの任務中、オレはナイフを投げながらスク先輩に姫の愚痴を話していた。
任務自体は簡単だし、真面目なスク先輩も仕事をちゃんとしてたら私語ぐらいじゃそうそう怒らないから気付いたらめちゃくちゃ話していた。
愚痴ははかどんなぁ、ししっ。

姫が痛みを感じない身体だということはヴァリアー内でもかなりのシークレットに辺り、幹部ぐらいしか知らされていない。
だから姫の愚痴なんて簡単には口にできないのだ。
部下に知られて、姫を興味本意で傷つけられても困るし。殺すし。
殺したらスク先輩にキレられるし。

「ベル!てめぇは姫姫うるせぇぞぉ!」

スク先輩は血のついた義腕を振るい、血を払う。そしてオレを睨み付けると至近距離で大声を出された。
すげぇうるせぇ。
スク先輩のがマジ数百倍はうるせぇ。

「ししっ♪だってオレ、いつも姫の側にいるし♪」

姫を見てんのは飽きないからついつい会いにいってしまう。好きとか嫌いとかこの際置いといて。

「あと、姫ってなんだぁ!?チャーラはチャーラだろぉが!」
「だって姫、ボンゴレの姫じゃん。だから姫は姫だし」

姫と何回も言っていたらスク先輩のこめかみに青筋が浮かぶ。
スク先輩は姫を"姫"って言われるのが嫌いらしい。認めてないからってのもあるだろうけど、まぁ、血筋的には雑種だしな。

ボンゴレは血を重んじる。だから姫に"姫"は重すぎんだとは理解してるけれど、やめない。姫は姫だ。今さらどうこう出来る問題じゃない。

「このぺーぺーのガキが……好きなヤツのことなんて口外すんじゃねぇえ!」

えらく真面目なことを言われ、思わずナイフを投げる手が止まる。するとスク先輩に「仕事しろ」と蹴られた。王子だから避けれたけど。

なんでオレ、姫の話なんかしてんだろ。
誰にも言わず、ただオレだけが大切にすりゃあいいのに。

口を閉じ、思考を始めた瞬間、頭の中が今までと比べ物にならないくらい姫でいっぱいになる。ムカつくほど、姫が好きなんだって思い知らされた。

そうか、オレ、こうなんのなんとなく分かってたんだ。だから姫のことを声にだして発散して、考えないようにしてた。考えたらいっぱいになるから。

いっぱいになって、すげぇ会いたくなって、帰りたくなって……。

任務どころじゃねぇじゃん。やばいじゃんオレ。

これ、ほんと、末期。
オレの純粋な恋心が末期症状訴えてきやがる。

次々とわき出る殲滅対象のマフィアに苛立ちがわいてきた。
おい、さっさと終わらせろよ。
いるやつら全員出せって。全員すぐ殺してやるから。

早くしねぇと姫がまた一人でぶっ倒れてるかもしれねぇだろ。
姫を助けれんのはオレだけなんだからよぉ、邪魔すんな。
頼むから、さっさと殺されてくんね?

「う゛お゛ぉい!!! すぐ終わらせるぞォお!!!!」

敵地をかけるスク先輩の背中を見つめ、ナイフを投げる。ワイヤーを操る。今あの人を援護することで仕事が早く終わるなら大歓迎。

早く終わらせて、姫のとこに帰りたい。

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