王子と硝子 |
姫は綺麗じゃない。 綺麗じゃないし、可愛くもない。 特にこれといって目立つ外見もしていない。 ボスは整った顔をしている。贔屓目を抜きにしても、かなり整った部類にはいるだろう。 でも姫は違う。 明らかに、雑種って顔してる。 肌は病的に白かったけど、さらさらじゃないし、ぷにぷにでもないし。だからといってざらざらというのもおかしい、そんな肌だ。 綺麗じゃない。可愛くない。 でも、不細工でもない。 普通でもなかった。 思えば姫は出会った時から不思議だったんだ。 そんなに仲良くもないボスの後ろに隠れて、オレを無視して本を読み始めて、挙げ句の果てには「血が出てるね」だ。 化け物だ。 その頃のオレには、姫が化け物にしか見えなかった。 実際姫は化け物だった。 痛みを感じない、気味の悪い化け物。 オレは姫が恐ろしくて、それよりも脆く映った。 痛みを感じない、強いはずの姫が、ボロボロの泥団子みたいに……。 いや、泥団子は違う。 なんせ、姫はキレイだから。 外見じゃない。そんなんじゃない。 分かんない。分かんないけれど、オレには姫がとびきりキレイに見えた。 だから姫は、ガラス細工だったんだ。 透明で、繊細で、壊れやすい。 安物の尊さを持った、哀れな人形。 姫はオレの特別だ。 化け物で、特別。 綺麗じゃない、透き通ってもいない歌声の、ガラス。 壊れることを望む、狂ったガラス。 オレじゃ、姫を痛め付けられなかった。 多分、オレは姫が好きだから。 痛みを感じないのなら、それに越したことはない。 姫が痛がるところなんて見たことないけれど、でも見たいと思わなかった。 好きなのに。 姫の全部は知りたくなかった。 違う。 好きだからじゃない。 それだけじゃなくて。 オレは姫の道具になりたくなかったんだ。 姫に、そんな風に認識してほしくなかった。 だから、傷付けない。 姫が望んでも。 オレは傷付けない。 どうしたら「痛い」って笑ってくれるんだろう。 痛め付けなければならないんだろうか。 痛みを感じないってどういうことなんだ。 それは精神的なことも全部? ならどうすればいい。どうにもならない。 オレじゃあ無理だ。 姫に傷なんて付けたくない。 傷付ける必要がないなら、それでいい。 姫は笑わなくていいよ。 「痛み」を笑わなくていいよ。 何も感じずに、泣けばいいよ。 |
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