王子と姫と鮫


今日も今日とて姫の部屋を目指す。なんだかんだで日課になってしまってる。惚れるってこえー。

大きい両扉に手をかけると、中から大声が聞こえて思わず手を引っ込めてしまう。

え、てか、姫の部屋から大声……?
いやいやいや。あり得ないっつーの。

オレは音が出ないようにゆっくり扉を開け、中を覗く。
くそ、姫の部屋はバカみたいにでかくてよく見えねー。

なんとか辺りに視線をやり、姫を見つける。ベッドに腰かけてんのか。

その視線は横に向けられている。ん……?隣に誰かいんのか…?

「たまにはボスに顔出しやがれぇ!!」

また大声。
誰かは見えなくても分かった。
こんな声出すのはスク先輩ぐらいしかいねーし。
そっと確認すると、案の定スク先輩が姫の隣に座っていた。

てか、なんでスク先輩が姫の部屋にいるんだよ…。スク先輩、姫のこと苦手じゃん。
何の用かはさっきの大声でなんとなく察したけど。

そんなのオレに言えばオレが……いや、そーいやスク先輩の姫絡みのお願いは全部断ってたわ。だから自分で来たのか。
こーなんなら素直に受けときゃよかった。

姫は少し怯えてるみたいだけどちゃんと自分の思いを話せてるみたい。スク先輩が言い淀んでるし。

スク先輩はまた大きな声で「分かった」と言うとベッドから腰を上げる。そして、ばっちりこちらを向いた。

「ベルッ!!!」

バレてる!
いや、まあ、バレずにやり過ごせるとは思ってなかったけど、今の様子じゃ多分オレが扉の前に立った辺りからバレてたな。

諦めて扉を開く。
姫は驚いたように目を見開いている。

大股で歩くスク先輩はオレの脇を通るとき、ぼそりと呟いた。いつもからは想像もできないぐらい小さい声。

「殺気を隠せねぇなんて特殊部隊失格だぞぉ」

思わず拳を握っていた。

殺気……隠す余裕なんてなかった。
スク先輩に対する殺気だ。

舌打ち一つ、オレは姫の部屋に足を踏み入れる。
真っ直ぐベッドまで歩き、姫の隣、さっきまでスク先輩が座っていた場所に腰を据えた。

「姫のせーでスク先輩に怒られたんだけど」
「ごめん……」

なんで とか どうしてとか 何も聞かずに姫は謝る。
嫌いだ。そんなの。適当に扱われてるみたいで。

オレなんて、スク先輩に殺気を抱いてたんだぜ?
オレをこんなに醜くした女がこんなバカ女だなんて、マジ報われねーよ。

嫌いだよ。何もかも。
姫のことなんて。
うざいし、腹立つし、嫌いだ。

好きになったオレが一番バカだろ。

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